金融消費者保護に関する法律(以下、「金融消費者保護法」という。)が、2020年3月5日国会本会議を通過しました。金融消費者保護法は、これまで各金融関係法令に散在していた金融消費者保護に関する規定等を効果的に管理するために一つの法律として定める一方、違法契約解約権、紛争調停離脱禁止規定、説明義務に関する損害賠償に対しての立証責任の転換等、既存の保険業法には存在しなかった規制を新設し、課徴金額を引き上げる等、より強化された金融消費者保護規制を設けているため、保険会社としては、強化される金融消費者保護規制への対応を速やかに行う必要があります。
金融消費者保護法の制定により変化する主な内容としては、適合性原則、適正性原則、説明義務、不公正営業行為禁止、不当勧誘禁止、虚偽・誇張公告禁止の六大販売原則の適用範囲が拡大されます。適合性原則(消費者の財産状況、金融商品取得・処分の経験等に照らして不適合な金融商品契約締結の勧誘を禁止する義務を負う。)は、原則として、全ての金融商品(保険の場合、変額保険等の大統領令に定める保障性商品)に対象が拡大(第17条)され、デリバティブ商品に限って適用されていた適正性原則(消費者が自ら購買しようとする金融商品が、消費者の財産等に照らして不適正である場合に、これを告知・確認する義務を負う。)も、大統領令に定める保障性商品(保険商品)に対して適用されます(第18条)。
上記の六大原則に違反する場合、5年以内の範囲内で大統領令に定める期間内に顧客が該当の保険契約を解約できる違法契約解約権が新設されました(第47条)。保険会社が正当な事由を提示できない場合、消費者が一方的に契約を解約できるものとして、保険会社は解約による費用を要求できません。また、請約(申込み)撤回権の場合、行使期間が「保険証券を受け取った日から15日以内」から「保険証券を受け取った日から15日以内または申込日から30日のうち先に到来する期間」に変更されます(第46条)。
事後的な金融消費者保護手続の部分においては、調停離脱禁止制度が新設されており、2千万ウォン以下の少額紛争は、紛争調停の完了時まで保険会社からの訴訟提起が禁止され、紛争調停申請がなされた事件について既に訴訟が行われている場合には、法院(裁判所)がその訴訟を中止できる訴訟中止制度が導入されました(第41条および第42条)。なお、説明義務違反による損害賠償責任の場合、既存の保険業法第102条に基づく保険会社の賠償責任と異なり、保険会社が説明義務違反において故意または過失がないことを立証するものとする立証責任転換に関する定めが盛り込まれました(第44条)。
また、既存の「金融会社の支配構造に関する法律」に定めている内部統制基準樹立義務とは別に、消費者保護に関する内部統制基準を設けるものとしており(第16条)、特定の金融商品による被害についての懸念が大きい場合、該当の商品に対する販売制限命令権が新設されました(第49条)。さらに、刑事処罰と過料の上限を引き上げ(第67条および第69条)、説明義務違反等の主な販売原則違反に対しては、関連収入等の50%に及ぶ懲罰的課徴金を賦課(第57条)できるものとすることで、金融消費者保護に関する規制に対する制裁レベルを一層強化しています。
金融消費者保護法は、2020年3月24日に公布される、その公布日から1年後に施行されます。また、内部統制基準樹立義務等の一部の規定に対しては、1年6ヵ月後に施行されます。同法の具体的な内容は、その相当部分を大統領令等の下位規定に定めるよう委任されていますが、このような下位規定は、「法施行日2ヵ月前」に完了する予定であるところ、かかる制定案作りおよび立法予告、意見のまとめ等の手続きを考えると、直に具体的な内容が定められるものと思われます。従って、保険会社は、今回制定される金融消費者保護法に定める新しい規制等に対し、迅速に対応する必要があります。