韓国の公正取引委員会(以下「公取委」といいます。)は、2021年3月5日付で電子商取引等における消費者保護に関する法律(以下「電子商取引法」といいます。)の全部改正案(以下「本件改正案」といいます。)を設け、4月14日までに40日間の立法予告をし、かかる立法予告期間において関係省庁、利害関係者等各界からの意見を十分にとりまとめ、国会に関連法案を提出する計画です。本件改正案は、デジタル取引環境に相応する消費者の権益を保護するため、オンライン・プラットホームにおける消費者関係を規律することにその趣旨があるところ、本件改正案が施行される場合、電子商取引法の適用対象であるオンライン・プラットホーム運営事業者、オンライン販売事業者および消費者に大きな影響を与えるものと予想されます。これにつき、以下では本件改正案の主な内容を検討し、その示唆点についてご説明します。
1.本件改正案の主要内容
イ. オンライン・プラットホーム中心の取引構造を考慮した用語の再整備
本件改正案は、変貌するオンライン取引構造および市場環境を反映し、電子商取引法の適用を受ける事業者をオンライン・プラットホーム運営事業者(以下「プラットホーム事業者」といいます。)、オンライン・プラットホーム利用事業者(例:オープンマーケット入店事業者、ブログ、カフェ等のSNSプラットホーム利用販売事業者等)、独自のインターネットサイト事業者(例:ホームショッピング、総合ショッピングモール、個人ショッピングモール、オンライン動画サービス(OTT)等)に分類し、プラットホーム事業者を取引方式および関与度によって、また情報交換媒介者(財貨等に関する情報交換を媒介する事業者、例:SNS(ブログ、カフェ)、C2C中古マーケット等)、連結手段提供者(財貨等の取引のための連結手段を提供する事業者、例:価格比較サイト、SNSショッピング等)、取引仲介プラットホーム(財貨等の取引を仲介する事業者、例:オープンマーケット、アプリマーケット、宿泊アプリ、デリバリーアプリ等)に分類しています(第2条)。これは、現行の電子商取引法が、郵便カタログ等の伝統的な通信販売方式による取引を基盤としており、オンライン・プラットホームを中心に再編された取引構造および市場状況の変化が的確に反映できていない状況を解決するためのものです。
ロ. 新規導入ないし強化された事業者の義務と責任
本件改正案において最も注目すべき部分は、プラットホーム事業者に対して、消費者に対する義務と責任を新たに賦課または強化したということです。特に、本件改正案は、プラットホーム分野が有する多面市場的属性および一層活発化している新しい類型の取引方式等を考慮し、B2C(Business to Customer)、C2C(Customer to Customer)関係についても、消費者に対する義務と責任を賦課しています。その主な内容は、下記のとおりです。
- ① 【隣接地域取引における法適用の拡大】 デリバリーアプリ等を利用した取引の活性化により、隣接地域の概念が拡大していることを考慮し、デリバリーフードの販売業者等入店業者に対しては身元情報提供義務を賦課し、デリバリーアプリ事業者に対しては、オンライン販売届出の義務、入店業者の身元情報の確認および消費者への提供義務等が適用されるものとし、消費者の被害を予防するものとしています(第3条)。
- ② 【消費者への情報提供の強化】 消費者の合理的な選択権を保護するため、検索結果と広告を区分表示し、検索順位を決定する主要決定基準を表示しており、事業者が利用レビュー掲示板を使用する場合には、ユーザーレビューの収集および処理に関する情報の公開を義務付けました。また、ターゲット広告を提供するときには、その事実を別途告知し、消費者が、ターゲット広告と一般広告を選択できるものとすることで、消費者がターゲット広告を拒否する場合、一般広告を選択できるものと定めています(第16条、第18条)。
- ③ 【危害商品流通の迅速な遮断】 電子商取引分野において、リコール制度の導入が確実なものとなっていない点を考慮し、危害商品の流通を速やかに遮断できるようリコール命令対象者のリコール義務の履行時に、電子商取引業者に対してもこれに協力する義務を明示し、一定規模以上の電子商取引事業者に対しては、政府のリコール命令等があるときに、直接リコールに関する電磁的措置の履行を命令できる根拠を新設しました(第20条)。
- ④ 【実際遂行する役割に対する情報提供】 仲介取引と直接購買を混用しているプラットホームが増えている状況を考慮し、プラットホーム事業者をして、自ら実際に遂行する役割に応じて仲介取引と直接購買商品とを分離表示させ、申込みの受付、代金受領、決済、代金の払戻、配送等の取引過程において、自ら遂行する業務の内容を消費者に知らせることを義務付けました(第24条)。
- ⑤ 【プラットホーム事業者の外観責任の強化】 消費者がプラットホーム事業者に対し、直接損害賠償等の請求を容易なものとするため、(i)プラットホーム事業者が取引当事者であると消費者を誤認させた場合(独自営業および入店業者営業を区分しない、または表示していない場合、自身の名義で表示、広告、供給、契約書の交付等、プラットホーム事業者が契約当事者に準ずるものと思わせる行為をした場合等)、オンライン・プラットホーム利用事業者の故意・過失により、消費者に発生した損害についてプラットホーム事業者にも連帯責任を負わせるものとしており、(ii)プラットホーム事業者が、申込みの受付等取引過程における重要業務を直接遂行する過程において、これと関連し消費者に被害を与えた場合、オンライン・プラットホーム利用事業者と連帯責任を負うものと定めています(第25条)。
- ⑥ 【C2Cプラットホームにおける消費者保護の拡大】 中古マーケット等個人間の電子商取引における消費者の被害を予防し、被害救済の拡大を図るため、C2Cプラットホーム事業者に対して、身元情報の確認および紛争の発生時に該当情報を提供する義務を賦課し、販売者に対して決済代金預置制度の活用を勧告するものと定めています(第29条)。
ハ. 消費者被害の遮断および救済手段の導入
さらに、本件改正案では、消費者の被害を事前に防ぎ、事後救済に向けた様々な手段を取り入れているところ、その主な内容は、下記のとおりです。
- ① 【臨時中止命令要件の緩和】 多数の消費者に対する被害拡散を速やかに防ぐため、過去の厳格な臨時中止命令の発動要件(法違反が明白であり、財産上の損害が実際に発生していること等)を「明白に法違反が疑われる場合」へと緩和しており、表示/広告の中止、削除、申込撤回を妨害する文言の削除やサイト上の警告メッセージの掲示等、臨時中止命令による措置内容が多様なものとなっています。また、従来の消費者保護院、消費者団体以外に、自治体からも公取委に臨時中止命令を要請できるものとしています(第64条)。
- ② 【同意議決制度の導入】 主に少額/多数の被害を発生させる虚偽/誇張/欺瞞的な消費者誘引行為に対する迅速かつ効果的な被害救済のため、同意議決制度*を導入しています(第60条ないし第63条)。
* 同意議決制度:公取委の調査や審議を受けている事業者が、自らの問題行為の中止、原状回復等の取引秩序の回復や改善のため必要な是正対策、または被害補償等の消費者や他の事業者等の被害救済または予防に向け必要な是正対策を提示する場合、公取委がその妥当性を判断し、かかる行為に関する審議手続を中断して、是正対策と同じ趣旨の議決(同意議決)をすることで、関連事件を速やかに終結する制度
- ③ 【電子商取引消費者紛争調停委員会の設置】 電子商取引における紛争調停の件数および割合が引き続き増加している状況、オンライン・プラットホームの三者関係(運営事業者‐利用事業者‐消費者)に関する紛争を一回的かつ速やかに解決する必要性等を考慮し、韓国消費者院に電子商取引に関する紛争調停を担当する「電子商取引消費者紛争調停委員会」を設置するものと定めています(第35条ないし第50条)。
ニ. その他変更事項
本件改正案は、制度運営の実効性と法執行力を確保する様々な手段を導入しており、特に、申込撤回の条件・期間についても明確に変更しています。その主な内容は、下記のとおりです。
- ① 【域外適用および国内代理人指定制度の導入】 外国事業者に対する実効性のある法執行のため、国内消費者に影響を及ぼす場合、国外での行為も法適用の対象であることを明確にしており(第5条)、国内に住所や営業所がない大規模な海外事業者に対して国内代理人の指定を義務付け、国内代理人に消費者被害救済および紛争解決業務を担当させることで、消費者保護および域外適用制度の実効性を高めるものとしています(第19条)。
- ② 【書面実態調査の導入】 急変する電子商取引分野の取引慣行、消費者被害および紛争解決の現況等を迅速に把握し対応するため、電子商取引分野に対して書面実態調査を実施できるものとしています(第53条)。
- ③ 【新設法人に対する課徴金賦課の根拠規定の導入】 法違反事業者の会社分割(合併)時においても、新設法人に対して、分割(合併)日以前の法違反行為に対して課徴金を賦課できる根拠規定を設けています(第65条、これは、公正取引法第55条の3第3項と同じ内容である。)。
- ④ 【申込撤回条件および期間の変更】 申込撤回に関する紛争を防ぐため、申込撤回が制限されるオーダーメイド商品の定義を、既存の「消費者の注文に応じて個別生産される財貨等またはこれに類する財貨等」から「消費者が財貨等を個別注文し、自ら使用または利用することが明白であり、他の消費者に再販売することが客観的に不可能な場合」と明確にしており、製品に瑕疵がある場合の申込撤回の期間を、既存の「供給を受けた日から3ヶ月以内、かつ知った日等から30日以内」から「消費者が財貨等の内容が表示/広告の内容と異なったり、契約内容と異なって履行された事実を知った日または知り得た日から30日となる日と、その財貨等の供給を受けた日から3ヶ月となる日のうち、先に到来する期間内」と明確に修正しています(第12条)。
2.今回改正案の示唆点
オンライン・プラットホームは、(i)プラットホーム利用事業者と消費者いずれもプラットホーム事業者の顧客になるという両面市場(Two-sided market)的特性、(ii)プラットホームの規模が拡大するほど、プラットホーム利用者の便益が直接・間接的に増大するネットワーク効果(Network effect)等により、デジタル経済時代においてその重要性が一層高まっていますが、それと同時に、これと関連する新たな問題等が次々と発生しています。このような状況において、オンライン・プラットホームの変化に遅れをとっていた電子商取引法の全面改正は、相当な意味があると言えます。
ただし、具体的な本件改正案の内容については、下記のような懸念が提起されており、今後、このような懸念に対する様々な議論があるものと予想されます。
- プラットホーム事業者が消費者の損害に対して利用事業者と連帯責任を負う規定について:本件改正案における連帯責任規定が通過する場合、プラットホーム事業者が連帯責任を避けるため、検証済みの利用事業者だけを入店させることになり、新規の利用事業者等の参入が難しくなり、その過程においてプラットホーム入店手数料が引き上げられ、結局、消費者の被害につながるという懸念があります。また、プラットホーム事業者に対する消費者の賠償請求が増大するものと予想されますが、そのような場合、プラットホーム事業者の故意/過失の有無、連帯責任の範囲の線引き等に関する激しい攻防が繰り広げられるものと予想されます。
- 臨時中止命令要件を緩和する規定について:本件改正案において臨時中止命令要件が緩和されることにより、臨時中止命令が規制当局の一方的な疑いや懸念のみで発動され得るのではないかという懸念提起がなされる可能性があると思われます。今回の改正の趣旨が、他法に比べて非常に厳しい要件があった臨時中止命令を活性化することにあるだけに、今後、臨時中止命令要件をめぐる激しい攻防が繰り広げられるものと予想されます。
- ターゲット広告に対する表示義務を賦課する規定について:本件改正案によると、消費者の選択によってターゲット広告が制限される効果が発生する可能性もあり、一方、ターゲット広告の事実を表示する方法や内容についても問題提起がなされる可能性があります。したがって、今後、ターゲット広告の具体的な規制内容や方式が盛り込まれる施行令および告示等の下位規定の制定の動向についても、見守っていく必要があります。加えて、既存の表示広告に関する規定とどのような違いがあるのかについても検討する必要があるものと思われます。
- C2Cプラットホーム運営事業者に販売者身元情報の確認・提供の義務を賦課する規定について:身元情報の提供を義務付けると、個人情報侵害の問題が発生する可能性が高まり、事業者が個人情報の保管と管理というさらなる負担を抱えることになるという懸念が提起されています。規制当局は、消費者被害を予防・救済するための最低限のシステムを設けたという立場ですが、本件改正案は、特に、中古マーケットのようなC2Cプラットホーム運営事業者に対して、身元情報の閲覧ではなく、身元情報そのものを提供させるものとしており、身元情報が事実と異なる場合、C2Cプラットホーム内の販売者の故意/過失により発生した消費者の損害に対して連帯責任を負うものと定めているため、個人情報問題により、ややもすれば、C2Cプラットホームの利用を避けることに繋がり、その過程においてプラットホームの革新が阻害され得るという懸念も提起されています。したがって、身元情報の確認および提供義務に関する議論は、今後も引き続き繰り広げられるものと予想されます。
- 検索順位を決定する主要決定基準の表示を義務付ける規定について:本件改正案は、事実上全てのプラットホーム事業者、オンライン販売事業者に対して、検索順位の主要決定基準表示を義務付けていますが、オンライン・プラットホーム公正化法の制定案では、一定規模以上のオンライン・プラットホーム運営事業者に対してのみ検索順位主要決定基準表示義務を賦課しているという点で、具体的な表示方式はもちろん、適用事業者の範囲等について引き続き議論がなされる可能性があります。なお、検索順位については、2020年12月欧州連合が発表したランキング・ガイドライン(Guidelines on ranking transparency pursuant to Regulation)のような海外の事例も参照する必要があります。
公取委は今後、中古マーケット、オープンマーケットおよび関連協会等を対象に、本件改正案についての詳細な説明、追加の意見開陳手続を行うという計画です。そのため、その過程における本件改正案の内容の変更如何に関して注目する必要があります。また、2021年4月14日までに統合立法予告センターまたは所管部署である公正取引委員会消費者政策局電子取引課に対し、積極的に意見提示を行うことも考慮する必要があります。
さらに、今後、電子商取引法施行令および関連告示を通じて、消費者に公開すべき情報の内容、方法および手続き、プラットホーム事業者が利用事業者と連帯責任を負う重要業務の内容、政府が直接危害防止措置を命令できる事業者の規模等、プラットホーム事業者が実際に負うべき義務や責任の内容が具体化するものと思われるため、電子商取引法の施行後、下位法令の制定の動きを見守る必要もあります。
最後に、オンライン・プラットホームをめぐる公取委と放送通信委員会等の規制機関の間における政策調整過程についても、関心を持って見守る必要があると思われます。
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