2021年3月24日、大規模流通業における取引公正化に関する法律(以下「大規模流通業法」といいます。)改正案が国会を通過しました。本改正案は、政府に付され、国務会議等の手続きを経て公布される予定であり、公布日から6ヵ月が経過した日から施行されます。

今回の改正案は、①大規模流通業者をして直接買入取引の際に納品業者に対して60日以内に取引代金を支給させ(代金支給期限規定)、②大規模流通業者が店舗賃借人から販売を委託された販売受託者の営業時間を不当に拘束できないようにすることを(営業時間拘束禁止規定)を骨子としています。今回の改正は、現行の大規模流通業法の空白を解消することを趣旨としていますが、今後、大規模流通業者らに対する法的責任が増す可能性があり、ビジネスモデルの特性上、法令遵守に実務的な困難が伴う可能性もあると予想されるなど、様々な問題が生じ得るものと思われます。

以下では、今回大規模流通業法改正案の主な内容について具体的に検討し、予想される論争事項等その示唆点についてご説明します。

 

1. 改正案の主な内容

イ. 代金支給期限規定(第8条)

大規模流通業法における大規模流通業者の取引類型は、(ⅰ)直接買入取引、(ⅱ)店舗賃借人との取引、(ⅲ)特約買入取引、(ⅳ)委託・受託取引とに区分されます。

現行法第8条第1項は、上記取引の類型のうち(ⅱ)店舗賃借人との取引、(ⅲ)特約買入取引、(ⅳ)委託・受託取引と関連して、大規模流通業者をして各取引により発生した商品の販売代金を、月販売締切日から40日以内に納品業者等に対して支給させることを定めています。一方、上記取引の類型のうち直接買入取引(大規模流通業者が、販売されていない商品に対する販売責任を負担することを前提として、納品業者から商品を買い入れる形の取引)と関連しては、別途の代金支給期限が定められていません。これは、直接買入取引の場合、買入と同時に販売代金支給義務が発生し、他の取引類型とは異なり、一定の販売収益または手数料控除のための販売締切および精算手続きによる期間を特別に要しなかったことを考慮したものと思われます。

しかし、大規模流通業の特性上、直接買入取引の場合にも、多数・多様な商品が取引されることにより、実際には、持続的かつ連続的な納品および精算が行われています。そのため、直接買入取引の場合にも、便宜上月の締切日を設定し、販売代金を一括して支払う方式により代金が精算されてきており*、他の取引類型と同様に商品の納品後から代金の支給まで一定の期間がかかることもあり得ます。

*例えば、公正取引委員会の百貨店/大手ショッピングセンター向け『直接買入標準取引契約書』でも、直接買入取引による納品代金を販売締切日から一定期間内に支払うものとしています。
第6条(納品代金の支給および減額禁止)①「甲」は、納品代金を販売締切日から( )日以内に現金、企業購買専用カードのような現金性決済手段により支払う。

また、実際にも、一部の大規模流通業者が取引規模の少ない中小納品業者に対しては、大型納品業者に比べ代金支給期日を長く設定するなどの事例が確認されたりもしました。このように、販売代金の支給遅滞による零細納品業者の被害が懸念される状況下で、これを制裁する法的根拠が設けられていなかったため、被害に対する適切な救済がなさなれていないという指摘がありました。

今回の改正案は、これを考慮して大規模流通業者が直接買入取引を行う場合にも、法定期限内に取引相手方に対して商品代金を支払うことができるものとしました。具体的には、大規模流通業者は、直接買入取引を通じて納品業者から商品を供給される場合、該当商品を受け取った日から60日以内に、商品代金を支払う義務を負うことになります(改正案第8条第2項)。また、大規模流通業者は、店舗賃借人との取引、特約買入取引、委託・受託取引の場合と同様に、直接買入取引の場合にも法定の代金支給期限を超えて商品の代金を支払うことになったときには、遅延利息を支払わなければならず(改正案第8条第3項)、このような商品代金および利息を商品券ないし物品により支給することもやはり禁止されます(改正案第8条第4項)。

現行法 改正案

第8条(商品販売代金の支給)

① 省略

(新設)

 

第8条(商品販売代金等の支給)

① (現行と同様)

大規模流通業者は、直接買入取引の場合には、該当商品を受け取った日から60日以内に該当商品の代金を納品業者に支払わなければならない。

② 大規模流通業者が第1項の商品販売代金を月販売締切日から40日が経過した後に支払う場合には、その超過期間に対して年100分の40以内で「銀行法」に基づいて銀行が適用する延滞利息率等経済事情を考慮し、公正取引委員会が定めて告示する利率による利息を支払わなければならない。

③ 大規模流通業者が第1項および第2項に定めた期限を超えて商品販売代金または商品代金を支払う場合には、その超過期間に対して年100分の40以内で「銀行法」に基づいて銀行が適用する延滞利息率等経済事情を考慮し、公正取引委員会が定めて告示する利率による利息を支払わなければならない。

③ 大規模流通業者は、第1項および第2項による商品販売代金および利息を商品券や物品により支給してはならない。

④ 大規模流通業者は、第1項から第3項までの規定による商品販売代金または商品代金および利息を商品券や物品により支給してはならない。

一方、今回の改正規定は、改正案施行後に大規模流通業者が直接買入取引を通じて商品を受け取った場合から適用されます(改正案付則第2条)。したがって、該当時点以降から上記の改正規定に違反する大規模流通業者は、公正取引委員会から商品販売代金支給に関する是正命令(法第32条)または課徴金が賦課されることがあり(法第35条)、上記是正命令に応じない場合には、場合により2年以下の懲役または1億5千万ウォン以下の罰金に処されることがあります(法第39条)。

 

ロ. 営業時間拘束規定(第15条の2)

現行法は、大規模流通業者が自社店舗を賃借して営業する入店業者の営業時間を不当に拘束する行為を違法行為と定めており、疾病の発病や治療等のやむを得ない事由により入店業者が必要最小限の範囲で営業時間の短縮を求める場合、大規模流通業者がこれを許容しなければ、法違反に該当する可能性があります。これは、店舗賃借人に営業の実益がないか、疾病の発病により治療が必要なときにも、大規模流通業者が営業を強制する場合、店舗賃借人の営業の自由が深刻に侵害され得るということなどを考慮し、2018年に新設された規定です。

ところが、大手ショッピングセンターなど、大規模流通業者の店舗に入店したブランド本社のほとんどは、販売委託により店舗を運営しており、店舗賃借人以外に店舗賃借人から販売委託を受けた事業者(以下「販売受託者」といいます。)により運営される店舗も多数存在しています。また、これらは、大規模流通業者の店舗で商品を販売しているという点で店舗賃借人と異なる取扱いを行う理由がなく、実質的にも店舗賃借人と同様に大規模流通業者から営業時間の拘束を受けてきました。しかし、販売受託者らは、大規模流通業者と直接契約関係を結んでいないという理由で店舗賃借人に該当しなかったため、法的な保護対象にはなりませんでした。

今回の改正案は、このような問題点を考慮し、既存の不当な営業時間拘束禁止規定の適用対象に店舗賃借人のみならず、販売受託者も含めています。そのため、大規模流通業者は、販売受託者が疾病の発病と治療の事由により、必要最小限の範囲で営業時間の短縮を求める場合、これを許容しなければならず、販売受託者の営業時間を不当に拘束してはなりません。

現行法 改正案

第15条の2(不当な営業時間拘束禁止)
大規模流通業者は、店舗賃借人が疾病の発病と治療の事由により必要最小限の範囲で営業時間の短縮を求めたにもかかわらず、これを許容しないなど不当に店舗賃借人の営業時間を拘束する行為をしてはならない。

第15条の2(不当な営業時間拘束禁止)
大規模流通業者は、店舗賃借人(店舗賃借人から販売委託を受けた者を含む。)が疾病の発病と治療の事由により必要最小限の範囲で営業時間の短縮を求めたにもかかわらず、これを許容しないなど不当に店舗賃借人の営業時間を拘束する行為をしてはならない。

このような改正規定は、販売受託者が改正案の施行後に営業時間の短縮を求める場合から適用されます(改正案付則第3条)。したがって、該当時点以降から上記改正規定に違反する大規模流通業者は、公正取引委員会から商品代金支給に関する是正命令(法第32条)または課徴金を賦課されることがあり(法第35条)、上記の是正命令に応じない場合には、場合により2年以下の懲役または1億5千万ウォン以下の罰金に処されることがあります(法第39条)。

 

2. 示唆点

イ. 代金支給期限規定(第8条)

大規模流通業者の取引類型のうち直接買入取引が高い割合を占めていることを考慮すると**、今回の改正規定は、大規模流通事業者らに対して新たな負担を与えるものと思われます。

**公正取引委員会の2020年大手流通業者の流通取引実態調査結果によると、取引金額基準コンビニの98.9%、大手ショッピングセンターの78.6%の取引が直接買入取引により行われました。また、零細納品業者との取引が相当な割合を占めるオンライン・ショッピングモール取引の場合、取引金額の43.9%相当が直接買入取引により行われていることが分かりました。

まず、通常の直接買入取引においても、納品業者と多数・多様な商品を連続的に取引している現実を踏まえると、他の取引類型と異なり、月販売締切日ではなく「商品受領日」を基準に納品代金を支払うことに困難が生じ得ると思われます。また、法定支給期限を遵守するために、既存の精算方式、代金支給手続きなど、システム全般に対する変更が必要になると思われます。したがって、改正法の施行前に既存の精算方式、システムなどを全体的に点検して備える必要があります。

直接買入取引対象商品のうち製作商品(家具)、設置商品(家電)、未入庫商品(輸入商品等)等の場合には、「商品受領日」が不明確な場合があり得るため、「商品受領日」の解釈と関連して議論が生じ得ると思われます。したがって、「商品受領日」を明確に特定し難い特殊な直接買入取引商品の場合には、商品受領日に関する規制当局の有権解釈を受けて置くことも考慮する必要があります。

一方、今回の改正案によると、大規模流通業者は原則として、直接買入取引による納品代金および利息を現金で支払わなければならず、商品券や物品により支給してはなりません(例外として、企業購買専用カード、売掛債権担保貸付等のように現金支給と類似する効果を持つ現金以外の代替決済手段は支給が許容される。)。また、納品業者が現金以外の代替決済手段で支給された代金を満期日以前に現金に換えるため負担しなければならない手数料、割引料、利息等の現金化費用が支給されない場合、大規模流通業法第17条の不利益提供行為として問題になる可能性があるということについても留意する必要があります。


ロ. 営業時間拘束規定(第15条の2)

今回の改正案により、店舗賃借人のみならず、店舗賃借人の販売受託者も営業時間短縮を要求できる権利を法的に保障されることになり、大規模流通業者としては、現行法に比べて店舗の営業時間、休業日等と関連して新たな制約を受ける可能性もあり、これにより、店舗の統一的運営にも変数が発生することもあると予想されます。

しかも、上記規定は、営業時間の短縮要求事由およびその範囲と関連して「疾病の発病と治療の事由」、「必要最小限の範囲」のような抽象的な概念と定めており、実際に当該規定を具体的に適用するときに、疾病の発病と治療の事由による営業時間の短縮が必要な場合に該当するか否か、その要求水準が必要最小限の範囲に該当するか否かなどに対する立場の違いが発生する可能性もあると思われます。ところが、今回の改正が、販売受託者における権益の保護に向けて行われただけに、今後、これと関連して販売受託者と紛争が発生すると、大規模流通業者が、そのような事由がないことや、必要最小限の範囲に該当するか否かなどを疎明しなければならない状況に置かれる可能性もあると思われます。

したがって、このような点を総合的に考慮し、改正案の施行前に店舗賃借人および販売受託者の営業時間短縮に関する手続きを整備する必要があります。具体的には、営業時間の短縮基準、すなわち、営業時間の短縮を要求できる事由、事由別の短縮時間をできるだけ具体的に定め、これを販売受託者等にあらかじめ知らせるなどの方策が考えられます。また、販売受託者等との紛争の可能性を予防する意味で販売受託者等の意見を集める手続きも行うことが望ましいと思われます。

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