ESGが持続可能な企業経営のための必須要素として認識され、その重要性が日増しに強調されていることを受け、世界各国の多様な機関がESG指標の提示を行っています。韓国の政府においても、いわゆる「K-Taxonomy(韓国型緑色産業分類仕組み)」と韓国産業標準ESG指標の開発に向けて取り組んでいます。また、韓国の主なESG指標の一つである韓国企業支配構造院ESG模範規準改正(案)(以下「本件模範規準(案)」が今年3月に公開されており、6月8日にはそれに対する公聴会が開催されました。
法務法人(有)世宗は、本件模範規準(案)のうち環境部門の主な内容と示唆点についての説明に続いて、今回は、下記のように企業支配構造に関する本件模範規準(案)の主な改正内容と示唆点についてご説明します。
1. 会社経営における取締役会のリーダーシップおよび役割の強調
本件模範規準(案)の最たる特徴は、会社経営の中心が取締役会であるということを強調し、取締役会リーダーシップの強化および取締役会運営の独立性と実効性を高めるための多くのシステム構築を要求していることです。
一方、本件模範規準(案)は、取締役会に対する評価等、取締役会および取締役が責任のある経営活動を行うための仕組みを設ける必要があるということも強調しています。取締役会の運営に関する本件模範規準(案)の主な内容は、以下のとおりです。
■ 取締役会内の委員会の役割強化および必須委員会設置の勧告
本件模範規準(案)では、周期的に発生する会社の主要問題や集中的な検討が必要な懸案に対しては、取締役会内の関連分野別委員会(代表的なものとして監査委員会、社外取締役候補推薦委員会、報償委員会、内部取引委員会)を設置し、該当分野における専門知識と経験を有している取締役の配置を勧告しています。
■ 社外取締役資格基準の強化等
本件模範規準(案)では、最近の事業年度末現在の資産総額が1兆ウォン以上の上場会社は、3人以上の社外取締役を置き、社外取締役を取締役総数の過半数にするよう勧告しています。また、本件模範規準(案)は、社外取締役が該当企業と「重大な関係」(これは、契約または取引関係、独立性を損なう利害関係、意思決定に影響を与える利害相反の関係等を意味する。)があってはならないと定めており、商法に定めた上場会社の社外取締役の欠格事由よりも幅広い資格制限(例えば、同種業界に属している他社の社外取締役兼職の禁止)を提示し、社外取締役の選任において「実質的独立性」を強調しています。
■ 取締役会に対する定期的評価実施の勧告
一方、本件模範規準(案)では、取締役会および取締役に対して重要な責任と役割が与えられたことに伴い、その責任経営を実践するための仕組みについても強調しています。その代表的なものとして、企業の実績および株価上昇率、長期経営目標の達成の有無、同種産業内における他企業の報償内容等の客観的基準により、取締役会の構成員が、自らの役割と責任を果たしているか否かを測定できる評価指標を設け、(ⅰ)取締役会、(ⅱ)取締役会内の委員会、(ⅲ)各取締役別に定期評価を行うものとしており、このような評価を公開し、取締役に対する報償審議または再選任決定の根拠として利用するよう勧告しています。
2. 株主および利害関係者との直接コミュニケーションの強調
■ 株主との直接コミュニケーションの強調
本件模範規準(案)のもう一つの特徴は、株主および利害関係者との直接コミュニケーションを強調していることであり、企業がコミュニケーションを担当する社外取締役を指定し、支配構造、環境経営、社会責任経営等の様々な領域について株主と直接コミュニケーションをとるよう勧告しています。
実際に、2020年基準で韓国企業支配構造院が行ったESG評価においてAランク以上の評価を受けた会社の場合をみると、毎四半期別の決算期を前後に株主らを対象に実績発表についての電話会議を開催し、国内および海外の機関投資家らに対する定期的企業説明会の実施、IRニュースレターの発送、アナリスト説明会、経営陣懇談会等を通じ、株主および利害関係者らとの直接コミュニケーションに向けた多方面での努力がなされていることが分かりました。
■ 公示範囲の拡大
次に、本件模範規準(案)では、定期公示・義務公示以外にも、支配構造関連情報、投資家等の利害関係者の意思決定に大きな影響を及ぼしうる主な事項についての情報、経営成果および財務状況に対する予測情報を適時に公示するよう強調しています。これにつき、金融委員会・金融監督院・韓国取引所は、2021年1月14日に『企業公示制度総合改善策』を発表し、公示についてもESG責任投資のための制度的基盤を作る必要があると強調するとともに、企業支配構造報告書の義務公示対象法人を段階的に拡大し、現在自律公示の対象である持続可能経営報告書を段階的に義務付ける計画を明らかにしました。
3. 企業支配構造模範規準(案)の示唆点
取締役会がリードする責任経営と取締役会の独立性の保障は、望ましい企業支配構造を実現するための長年の課題であり、株主および利害関係者とのコミュニケーションの強化も一層強調される傾向にあります。そのため、本件模範規準(案)は、ESG経営が、会社経営陣の責務として位置付けている現実を踏まえ、支配構造に関する上記の課題等が反映された基準を提示しているため、今後、会社経営陣は、ESG指標が提示するESG要素に引き続き関心を寄せ、その内容を企業経営に効果的に適用できるガバナンス・システムを整備する等、適切な対応策づくりとその実践に乗り出す必要があるといえます。
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