公正取引委員会(以下「公取委」といいます。)は、2021年12月30日に施行される全面改正公正取引法に関連し、同法施行令の全部改正案を立法予告しています。この度の改正公正取引法には新たに盛り込まれた内容が多いため、これを具体化する改正施行令案についても、多くの関心が寄せられていました。公取委は、2021年7月14日までに、改正施行令案に対する利害関係者や関係部処等の意見を取りまとめた後、改正公正取引法の施行前に改正を完了することを予定しています。
法務法人(有)世宗は、改正施行令案における主な内容とその示唆点について、三回に亘ってご説明させて頂く予定であり、その最初として、改正施行令案における情報交換談合禁止規定の適用対象および自主申告減免の取消理由につき、下記のごとく、ご説明させて頂きます。今後の主題については、次のとおりです。
1. 情報交換談合禁止規定の適用対象および自主申告減免の取消事由
2. 革新成長促進に係る改正
3. 企業集団法制の改善
1. 情報交換談合禁止規定の適用対象情報の具体化
イ. 改正施行令案の内容
談合に対する法執行が強化されることにより、事業者らの談合の手法は、情報交換を媒介としてより水面下で進められるものへと変化しています。これに対し、改正公正取引法は、情報のやり取りを行うことで、一定の取引分野において競争を実質的に制限する行為を談合の類型の一つとして盛り込み、このような情報交換談合の適用対象となる情報を、施行令において具体的に定めるものとして委任しました(改正公正取引法第40条第1項第9号)。
今回の改正施行令案は、情報交換談合禁止規定の適用対象情報を、①商品または役務の原価、②出庫量、在庫量または販売量、および③商品・役務の取引条件または代金・対価の支払条件として規定しました(改正施行令案第43条)。
改正公正取引法 (2021年12月30日施行予定) |
改正施行令案 (2021年12月30日施行予定) |
第40条(不当な共同行為の禁止) ①事業者は、契約・協定・決議またはその他のいかなる方法によっても、他の事業者と共同で不当に競争を制限する次の各号のいずれかに該当する行為をすることを合意(以下「不当な共同行為」という。)するか、他の事業者をもってこれをするようにしてはならない。 9. その他の行為として、他の事業者(その行為をした事業者を含む。)の事業活動または事業内容を妨害・制限するか、価格、生産量、その他の大統領令にて定める情報をやり取りすることにより、一定の取引分野において競争を実質的に制限する行為 |
第43条(事業者間交換時の競争を制限するおそれがある情報の類型) 法第40条第1項第9号にて『大統領令にて定める情報』とは、各号のいずれかをいう。 1. 商品または役務の原価 2. 出庫量、在庫量または販売量 3. 商品・役務の取引条件または代金・対価の支払条件 |
ただし、法違反となるためには、情報交換談合の対象である情報を交換する行為の他にも、「競争を実質的に制限」するなどの要件を満たす必要がありますが、公取委は、上記の実質的な競争制限性に関する判断基準および情報交換合意の成立の如何についての判断基準等を、別途の研究役務を通じて審査指針の形で定める計画です。
ロ. 示唆点
改正施行令案は、出庫量、販売量だけでなく、取引条件、代金および対価の支払条件等も情報交換談合の対象となる情報であると規定し、規定の対象を拡大しました。事業者らにおいて市場動向の把握に向け、出庫量、販売量等の情報交換が頻繁にやり取りされている現実を考慮すると、このような情報交換が(実質的な競争制限性が認められるとすると)違法なものと評価され得るということに留意する必要があります。
通常、交換される情報が価格のような戦略的情報に該当し、市場全体についてのものではなく、個別企業に対する情報に該当し、外部に公開されていない情報であるほど、競争を制限する可能性が高くなります。参考として、ECの『水平的共同行為ガイドライン』においても、交換される情報が一般的に企業の秘密に属し、競争の核心的要素であると言える会社レベルの個別情報である場合には、競争が制限されるおそれがより高く、非公開の情報や私的な情報がそうではない情報に比べ、競争制限性が高いものとみています。
ただし、価格といっても将来の価格なのか、現在(または過去)の価格なのか、どの程度細部的な価格なのかによって競争制限性に対する評価は変わるものと思われます。生産量や在庫量もまた日別、月別、年度別の資料なのか、全体総合の資料なのか、個別の財貨別、細部モデル別の資料なのかなどによって競争制限性に対する評価は変わり得ます。また、同じ施行令に定められている情報であっても、価格、販売量、取引条件や支給条件の間においても競争制限性評価は変わり得ます。さらに、効果的な資源配分や経営の効率性の向上のような情報交換による競争的な効果を考慮すべき場面もあり得ます。
これにより、今回の改正施行令案を通じて情報交換談合の対象となる情報が具体化されたとしても、実質的な競争制限性が認められ禁止される情報交換談合に該当するかについては、個別の案件ごとに相当異なってくるものと予想されます。
2. 自主申告制裁措置減免の取消事由の具体化
イ. 改正施行令案の内容
改正公正取引法は、談合の事実を自主申告し、制裁措置の減免等の恩恵を受けた者が、それ以降、裁判において調査過程とは異なる供述をするなどの場合には、是正措置や課徴金の減免を取り消すことができるものと規定しています(改正公正取引法第44条第3項)。これは、自主申告を通じて制裁措置の減免等の恩恵を受けておきながら、その後、裁判の過程において、法違反について否認するなどの形態を防ぐための措置として、改正公正取引法は、自主申告に対する減免の恩恵を取り消すことができる事由を施行令に委任しています。
これにつき、改正施行令案は、下記のように制裁措置減免の取消事由を具体的なものにしています。
改正法律 (2021年12月30日施行予定) |
改正施行令 (2021年12月30日施行予定) |
第44条(自主申告者に対する減免等) ①次の各号のいずれかに該当する者(所属前・現職の役職員を含む。)については、第42条による是正措置や第43条による課徴金を減軽または免除することができ、第129条による告発を免除することができる。 1. 不当な共同行為の事実を自主申告した者 2. 証拠提供等の方法により公取委の調査および審議・議決に協力した者 ③第1項により是正措置や課徴金を減免または免除された者が、その不当な共同行為に関連する裁判において、調査過程に供述した内容とは異なって供述するなど、大統領令にて定める場合に該当する場合には、第1項による是正措置や課徴金の減軽または免除を取り消すことができる。 |
第54条(自主申告者等に対する減軽または免除の基準等) ①法第44条第3項にて『大統領令にて定める場合』とは、各号のいずれかをいう。 1. 調査および審議・議決の過程において供述するか、提出していた資料の重要な内容を全部または一部否認する主張を裁判(法第99条の不服の訴えによる裁判1をいう。以下同条にて同じ。)過程で行う場合 2. 調査および審議・議決の過程において供述するか、提出していた資料が虚偽のものとして裁判で明らかになった場合 3. 共同行為の事実を立証するために必要な供述等をしなかったり、法院に出席しないなど、正当な理由なく、裁判に誠実に協力しない場合 4. 自主申告した共同行為の事実を否認する旨の訴えを提起する場合 |
ロ. 示唆点
上記のとおり、自主申告者の誠実協力の義務が、事実上裁判の段階まで拡大されることにより、今後自主申告者は、制裁措置の減免を受けるため、公取委の調査以降から裁判が終了するまで、追加の誠実協力の義務を負うことになります。特に、このような誠実協力の義務を履行しない場合には、自主申告を通じて受けた減免の恩恵が取り消されることもあり得るため、自主申告を検討する際から、あらかじめこのような点を十分に考慮する必要があるものと思われます。
当該施行令改正につきましてご質問等がございましたら、下記の連絡先までご連絡ください。より詳細な内容について対応させて頂きます。
1 改正施行令案は、裁判の範囲につき、改正公正取引法第99条の不服の訴えによる裁判を言うと規定し、当該裁判が公取委の処分に対する取消訴訟を意味するという点を明確にしました。これにより、自主申告者に対して提起された不当な共同行為による損害賠償請求訴訟は、適用対象から除外されるということに意味があります。 |
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