グローバル最大のOTT事業者であるNetflix(ネットフリックス)が、韓国のインターネットネットワーク(網)事業者であるSKブロードバンドを相手に、ネットワーク利用対価に係る交渉義務および対価支払債務不存在確認訴訟を提起したことにより始まった裁判において、法務法人(有)世宗は、SKブロードバンドを代理して一審全部勝訴判決を導き出しました。

 

1.事件の概要および争点

本件は、グローバルOTT事業者としてSKブロードバンドのネットワークを利用し自らのコンテンツを配信しているNetflixが、SKブロードバンドとの関係において、①ネットワーク利用対価に係る交渉に応じる義務がないこと、②ネットワーク利用対価の支払債務がないことの確認を法院(裁判所)に請求した事案です。

Netflixが2016年に韓国で初めてサービスを開始して以来、韓国内におけるNetflixサービスの利用者数は増え続けており、これを受け、Netflixのコンテンツを配信するための韓国のインターネットネットワーク事業者のインターネット網の拡充および運営費用も引き続き増加していました。SKブロードバンドは、このような自社のインターネット網の拡充努力により恩恵を受けたNetflixに対し、持続的にインターネット網利用対価の支払いを求めましたが、Netflixはその対価の支払いを拒否し、交渉にも誠実に応じませんでした。

そのため、SKブロードバンドは、2019年11月にNetflixを相手に放送通信委員会に『Netflixとのインターネット網利用対価交渉のための裁定』を申請しました。放送通信委員会の裁定手続とは、電気通信事業法第45条に基づいた制度として、電気通信事業者間において紛争がある場合、これを放送通信委員会が客観的な立場で調整するために設けた制度です。

このような放送通信委員会の裁定手続が約6カ月間行われていた中、2020年4月にNetflixは突然、SKブロードバンドを相手に今回の訴訟を提起しました。これにより、進められていた放送通信委員会の裁定手続は中止となりました。

 

2.法院の判断

本件につき裁判部は、インターネット網利用対価に係る交渉義務不存在確認の訴えに対しては、Netflixの確認の利益が認められないため不適法であると判断し、却下しました。却下とは、法院が判決をするための要件を満たしていないとして本案に対する当否判断を行わずに下す判決をいいます。

また、裁判部は、本件の訴えのうち、インターネット網利用対価の支払債務不存在確認請求に対しては、「NetflixがSKブロードバンドに接続等の有償サービスの提供を受けることに対する対価を支払う債務を負う。」と判断し、請求を棄却しました。

本件においてNetflixは、「インターネット上の配信は無償」というインターネットの基本原則が存在し、コンテンツを配信することはSKブロードバンドの義務であって、インターネット網を利用するのはSKブロードバンドに加入したエンドユーザーだけであり、SKブロードバンドがNetflixに対してインターネット網の利用対価を要求することは、ネットワーク中立性(network neutrality)に反すると主張しました。

上記の主張に対して法務法人(有)世宗は、Netflixが主張するインターネットの基本原則は存在しないということ、SKブロードバンドのようなネットワーク事業者のネットワークの使用は、有償が原則であるということを集中的に主張・証明し、現在、国内外のコンテンツ事業者らの一般的なインターネット網の利用および対価支払関係等についてもまとめて提出しました。また、両面性市場(two-sided market)の構造をとっているインターネット網利用市場において、SKブロードバンドに加入したエンドユーザーのみならず、Netflixのようなコンテンツ事業者も、ユーザーの地位においてエンドユーザーとは別にインターネットに接続してネットワークを利用しているため、それに相応する対価を支払う義務を負うということ、ネットワーク事業者が正当なネットワーク利用対価を要求することは、ネットワーク中立性とは関係がないことを明らかにしました。

裁判部は、法務法人(有)世宗の主張を受け入れ、①被告が費用を投入し、また努力を行い、自らの事業の範囲内でとった行為は、商行為として有償性を前提にしている点、②被告が原告らに対してインターネット接続サービスを提供し、原告らがこれを受け取った点、③被告が加入者に対して提供するサービスと、原告らのようなコンテンツ事業者に提供するサービスは別のサービスであり、原告らとNetflixサービス加入者との間のコンテンツ配信は、明らかに原告らの積極的な行為によるものである点、④SKブロードバンドがNetflixに提供するサービスは、経済的価値のあるサービスである点、⑤ネットワーク中立性は、本件とは関連がない点等をいずれも認めました。

これにより裁判部は、Netflixは、SKブロードバンドに対して、ネットワークへの接続およびその接続状態の維持という有償サービスの提供を受けることに対する対価支払義務を負うとみるのが妥当であると判断し、Netflixのネットワーク利用対価支払債務不存在確認請求は、全部理由がないと判断しました。

 

3.本判決の意義

本判決は、世界的にも前例のない「インターネット網利用市場におけるネットワーク利用対価支払義務」について判断した最初事例という点で、非常に大きな意味があります。特に、本判決において、ネットワーク事業者が提供するネットワークサービスが決して無償ではなく、ネットワーク事業者のネットワークを介してコンテンツを配信し、これにより巨額の収益を出しているコンテンツ事業者は、エンドユーザーとは別に、ネットワーク利用対価を支払う義務を負うことが明確に確認されたという点で意味深いといえます。

法務法人(有)世宗は、企業訴訟分野とICT分野において各自独歩的な専門性と経験を有している訟務グループとICTグループの有機的な協業により、上記のような複雑なインターネット環境について正確に分析し、論理的な主張および立証を行うことができたのであり、その結果、SKブロードバンドの全部勝訴という結論を導き出すことができました。

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