– いわゆる「小規模ビル(コマビル)」等に対する相続·贈与税課税実務における法的問題 –

 

1. 序論

韓国国税庁は、2020年1月31日付報道資料により、いわゆる「小規模ビル*」等の非住居用不動産と更地を対象に鑑定評価事業を行うと述べました。
* 訳注:一般的に売買価格50億ウォン未満の建物。しかし最近は、建物売買価格の急騰により100億ウォン未満の建物を指して小規模ビルと呼ぶこともある。

小規模ビル等非住居用不動産の場合、アパート等の住居用不動産と異なり、個々の特性が強く比較可能な対象物件がほとんどなく、取引も頻繁でないため、納税者(相続人、受贈者)は特別な事情がない限り、当該不動産の公示・告示価額等を相続・贈与財産の価額(時価)とみなし、相続・贈与税を申告してきました。ところが、国税庁は、上記報道資料を通じて、国税庁が任意に鑑定機関を選定し、上記のような不動産に対する鑑定評価を行わせた後、その鑑定価額を当該相続・贈与財産の価額(時価)とみなし、相続・贈与税を賦課すると公表しました。

その後、実際に各地方国税庁と税務署は、多数の事案において、納税者が申告した相続・贈与財産の価額(公示・告示価額)を否認し、国税庁が選定した鑑定機関による鑑定価額を当該相続・贈与財産の価額とみなして相続・贈与税を算出した後、納税者の申告済み相続・贈与税との差額を追加課税する処分を行いました。これを受け、多くの納税者が、かかる賦課処分の取り消しを求める租税審判(行政審判)を提起するなど、争いが生じています。

以下では、まず、課税官庁の上記のような課税実務の根拠について検討し、かかる課税実務が、法的にはどのような問題点があるかについて検討します。

 

2. 課税官庁の主張する賦課処分の根拠

韓国政府は、2019年2月12日、大統領令第29533号により『相続税および贈与税法』(以下「相贈税法」といいます。)施行令第49条第1項等を改正しました。この改正により、2019年2月12日以降に相続が開始されたり、贈与される財産については、相続・贈与財産の評価期間1が経過したとしても、その経過時点から相続・贈与税の法定決定期限2までの期間中に売買、鑑定等がある場合にも、国税庁評価審議委員会の審議を経て、当該価額を相続・贈与財産の価額(時価)とみなすことができるようになりました(相贈税法施行令第49条第1項)。

課税官庁は、納税者の相続・贈与税申告後に課税官庁が自ら鑑定機関(鑑定評価法人等)に対して鑑定を依頼し、鑑定評価書を作成させた後、これを上記施行令規定の「鑑定がある場合」に該当するとして、その鑑定価額を相続・贈与財産の価額(時価)とみなして課税を行っています。

 

3. 課税官庁の任意鑑定評価の法的問題点:租税法律主義、租税平等原則違反 

(1) 憲法第38条等が宣言している「租税法律主義」は、租税法の基本原則として課税要件を法律で定めて国民の財産権を保障し、課税要件を明確に定めることで国民生活の法的安定性と予測可能性を保障するためのものであって、「課税要件法定主義」と「課税要件明確主義」をその骨子としています。

そのうち、「課税要件法定主義」とは、納税義務を成立させる納税義務者・課税物件・課税標準・課税期間・税率等の課税要件と、租税の賦課・徴収手続に関し、いずれも国民の代表機関である国会が制定した法律により定めなければならないということを意味します。また、「課税要件明確主義」とは、課税要件を法律で定めたとしても、その規定内容があまりにも抽象的かつ不明確であれば、課税官庁の恣意的な解釈と執行につながる虞があるため、その規定内容が明確かつ一義的でなければならないという原則をいいます(憲法裁判所2011年10月25日付2010憲バ134決定等)。

(2) 課税官庁が賦課処分の根拠として提示する相贈税法施行令第49条第1項は、相贈税法第60条第2項の委任を受け制定されたものです。ところが、相贈税法第60条第2項は、「同条第1項による時価は、不特定多数人の間において自由に取引が行われる場合に、通常成立すると認められる価額とし、収容価格・公売価格および鑑定価格等大統領令で定めるところにより時価として認められるものを含む。」と定めているだけで、課税官庁が、何らの法令上の基準もなく特定納税者を任意に選定し、当該納税者の相続・贈与に対する鑑定評価を行える権限を与えていません。したがって、課税官庁が恣意的に特定納税義務者を選定して相続・贈与財産に対する鑑定評価を行い、これを根拠に賦課処分を行うことは、それ自体で法律に基づかない違法なのではないかという疑問があります。

課税官庁は、相贈税法施行令第49条第1項を賦課処分の根拠として提示しています。しかし、相贈税法施行令第49条第1項は、その文言そのものからも分かるように、当該施行令が定めた期間中に売買・鑑定・収容・競売または公売(以下「売買等」といいます。)がある場合に、当該施行令により確認される価額を時価と認めることができると定めているだけで、課税官庁が任意に課税価格を決定するため一方的に鑑定評価を行い、売買等がある場合を作り出せる権限を与えているものではありません。すなわち、上記施行令が定めた期間中に市場において売買、鑑定、収容、競売または公売が発生した場合、その売買等の価格を、上記施行令が定めるところにより時価と認めることができるというだけであって、課税官庁が任意に鑑定を行って売買等がある場合を作り出せるという内容であるとは考え難いものです。

(3) 一方、大法院(最高裁判所)は、過去譲渡所得税と関連して、『課税官庁の主観的判断により投機取引者として認められれば、譲渡または取得価額を実地取引価額によるとすることで、譲渡価額を基準時価によるか、それとも実地取引価額によるかを課税官庁が決定できるものとした規定』に対して、課税官庁に恣意的な裁量を許容する一方、納税義務者としては、譲渡所得税の賦課処分前に自己に課せられる課税額の予測ができなくなるものとした規定であって、租税法律主義の原則に反する無効の規定であるというべきであるところ、この規定を根拠に譲渡所得税の賦課処分を行うことはできないと判示しています(大法院1993年6月29日宣告93ヌ1565判決、大法院1990年5月8日宣告89ヌ8149判決、大法院1990年7月27日宣告90ヌ3768判決等)。

課税官庁の上記のような任意の鑑定評価は、①納税者が相贈税法により公示・告示価額等を根拠に適法な相続・贈与税の申告・納付を完了したにもかかわらず、課税官庁がその後任意に鑑定評価を行い、納税者が申告した相続・贈与財産の価額を否認することは、当該相続・贈与財産の価額の評価において、公示・告示価額によるか、それとも鑑定価格によるかが課税官庁の恣意的裁量により決定されるという深刻な問題を発生させるという点、②その結果、納税者としては、相贈税法に基づいて適法に申告・納付を完了しても、課税官庁が任意に行う鑑定評価の結果により、自己に賦課される税額が変わることになるため、納税義務の範囲を予測できなくなる極めて不安な地位に置かれるようになるという点等からしても、租税法律主義の原則に反する違法なものではないかという疑問があります。

(4) また、大法院は、『憲法第11条第1項は、すべての国民は、法の前に平等であり、誰でも合理的な理由なしには生活の全領域において差別を受けないという平等原則を宣言している。このような平等原則が、税法の領域で実現されたのが租税平等主義であり、租税の賦課および徴収は、納税者の担税能力に相応して公正かつ平等に行われなければならず、合理的な理由なく特定の納税義務者を不利に差別したり優遇することは許されない』と判示してきました(大法院2020年6月18日宣告2016年ドゥ43411全員合議体判決等)。

しかし、公示または告示価額と時価との差は、すべての土地と建物等において発生している共通の事象であるということは、公知の事実であるにもかかわらず、任意に特定の不動産を選定し、鑑定評価を行って課税をすることは、それ自体で租税平等主義に反すると考えられる面もあります。

 

4. 結び

国税庁が2020年後半からいわゆる小規模ビル、更地等の相続・贈与財産に対して、法令上の何らの基準もなく任意に鑑定評価を行い、その価額を基に相続・贈与税賦課処分を行っているのは、上記検討のとおり、租税法律主義の面で様々な問題があり、また、租税平等の原則の面でも問題があるため、必ず争訟期間(原則として、賦課処分を受けた日から90日)内に法的手続を経て法院の判断を受ける必要があるものと思料されます。

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1 相続財産の場合、相続開始日前後6カ月、贈与財産の場合、贈与日前6カ月から贈与日後3カ月
2 相続税は、相続税課税標準申告期限(相続開始日が属する月の末日から6カ月)から9カ月(すなわち、相続開始日が属する月の末日から15カ月)、贈与税は、贈与税課税標準申告期限(贈与された日が属する月の末日から3カ月)から6カ月(すなわち、贈与された日が属する月の末日から9カ月)

 

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