政府は、2021年9月28日に開かれた第42回国務会議において『重大災害処罰等に関する法律施行令』制定案について審議・議決しました。今回の同施行令制定案は、2021年7月9日に立法予告されていた制定案と比較すると、次のような側面において大幅な変化が見られました。
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安全保健管理体系の構築に関連し、経営責任者らに対し、重大産業災害および重大市民災害を予防するための人員、施設および装備等を備えるために「適正な予算」を編成(案第4条第4号、案第10条第1項第2号)せよという表現を削除し、「必要な予算」を編成するものとしたものの、その必要な予算項目に関して具体的に規定しました(令第4条第4号、第8条第2号)。
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第三者に対する業務の請負、用役、委託を行う場合、第三者に保障すべき「適正な安全および保健管理費用と遂行期間」(案第4条第8号)の表現を削除し、経営責任者らに対して安全・保健管理費用および建設業および造船業に限定し、安全保健のための工事期間または建造期間に関する各基準を設ける義務を賦課しました(令第4条第9号ナ目およびダ目)。
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安全・保健専門担当組織(案第4条第5号)の役割に対し、「安全・保健に関する業務を総括・管理する専門担当組織」(令第4条第2号)と具体的に定めることにより、安全・保健専門担当組織の業務がより明確になり、性格上、本社に所属する組織であるという点が明確になりました。
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重大市民災害関連の安全保健管理体系の構築に向けた安全・保健に関する人員を「適正規模で配置」し、重大市民災害を予防するための「適正な業務」を付与するものとする表現を削除し(案第10条第1項第1号、第12条第1項第1号)、施行令にて定める各事項を履行するにあたり「必要な人員」を配置するものと定めました(令第8条第1項、第10条第1項)。
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重大産業災害の「安全・保健関係法令」の意味を「従事者の安全・保健を確保することに関連する法令」(令第5条第1項)、原料・製造物関連の「安全・保健関係法令」の意味を「その原料や製造物が人の生命・身体に及ぼし得る有害・危険要因を予防し、安全に管理することに関連する法令」(令第9条第1項)、公共利用施設・公共交通手段関連の「安全・保健関係法令」の意味を「利用者やその他の者の安全・保健を確保することに関連する法令」(令第11条第1項)として各々定義することにより、その意味がより一層具体的なものとなりました。
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職業性疾病(令第2条別表1)に対し、既存案の「一時的に大量の」の表現らを全て削除し、嘔吐、高熱、目まい、粘膜刺激の症状等のような異常症状の例示を削除しており、職業性疾病の認定範囲を過剰に拡張できる「等」の表現を全て削除するなど、急性中毒疾病の範囲を従前に比べ限定して定めました。
上記のごとく、国務会議において議決された施行令は、最初に立法予告された制定案と比べ「適正な」、「適切に」、「十分な」等の曖昧な表現が削除され、経営責任者らの義務の内容が具体的に定められたという側面で、企業らが重大災害処罰法の施行に先立ち、対応策づくりをするにあたり一助となる側面があります。しかし、最初立法予告された制定案と比較すると、1) 安全保健管理責任者らに対し、業務遂行に必要な権限と予算を与え、業務遂行に対する評価基準を設け、半期に1回以上評価すること(令第4条第5号)、2) 従事者の意見聞き取りの後、改善策を設けることに加え、半期1回以上の改善策づくりとその履行の有無につき点検すること(令第4条第7条)、3) 安全・保健教育実施の如何についての点検を「半期1回以上」とし、外部機関に点検を委託する場合、点検の終了後「遅滞なく」点検結果の報告を受けること(令第5条第2項第3号、第9条第2項第3号)、4) 原料・製造物の有害危険要因の確認・点検を「周期的」に行うこと(令第8条第3号カ目)、5) 第三者に対し、公共利用施設・公共交通手段の運営・管理業務を請負・用役・委託する場合、受託者に対する重大市民災害の予防に向け、点検を「年1回以上」実施すること(令第10条第8号)等の義務が新たに追加されたという点から、企業の負担が軽減されたと見るのは難しいです。
法務法人(有)世宗は、労働、建設、製造物、環境、化学物質等の安全規制、企業支配構造、訴訟、刑事当の関連分野の弁護士、労務士および専門委員等の最高の専門家ら約30名によって「重大災害対応センター」を構成し、重大災害処罰法にて定めている重大災害(重大産業災害および重大市民災害)を予防するための経営責任者らの安全・保健の確保義務の履行および経営責任者らに対する処罰の可能性を下げるためのコーポレートガバナンス体系構築等にかかるアドバイス・サービスを提供しております。貴社のニーズに合ったコンサルティングをご提供させて頂きます。
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