2022年にも下都給法(日本では下請に当たる。以下「下請法」といいます。)と関連して大きな変化が起こるものと思われます。法務法人(有限)世宗は、下記のとおり、2022年下請法関連の動向および示唆点についてご案内させて頂きます。
1. 2022年公正取引委員会の主要業務推進計画における下請法関連の内容
公正取引委員会(以下「公取委」といいます。)は、2022年の主要推進課題を発表し、核心課題の一つとして「大手・中小企業間の抱擁的取引関係の造成」を、懸案課題の一つとして「不公正行為に対する迅速かつ中身のある対応および被害救済」を各々選定しました。
まず公取委は、中小企業と小規模事業者の取引条件を改善し、交渉力を強化する趣旨で、大企業集団の一次協力会社の下請け代金決済の条件公示に向けた細部手続き、中小企業中央会の下請け代金調整協議の方法・手続きを設けることを明らかにしました。また、公取委は、不公正行為を根絶するため、自動車分野の下請け取引の実態を点検し、化学等の専属取引の割合が高い業種に対する監査を強化する予定であり、標準秘密保持契約書の制定・配布、技術流用の匿名通報センターの設置等を通じ、中小企業の技術資料に対する保護も強化していく計画です。さらに、公取委は、地域現場における甲乙(パワハラ)問題への対応力を強化するため、地方自治団体の紛争調整役割を下請け・流通分野にまで拡大し、移譲された権限の一貫性のある執行に向けた教育を強化していくものと明らかにしました。
また、公取委は、迅速な紛争解決と被害救済に向け、中小企業が困難を抱えている下請け代金紛争に関連して鑑定評価の手続きを導入し、下請け関連の調整事件における効率性と専門性を高めるため、分野別の紛争調整協議会に常任委員を置くものと明らかにしました。
これにより、公取委が明示的に言及した業種に属する元請事業者らは、公取委における取調べの可能性を念頭に置きながら、現在進められている下請け取引の契約内容、代金支払いの状況等に関連し、下請け法違反の余地があるか否かにつき、先立って点検しておく必要があるものと思われます。
2. 改正下請法(2022年2月18日施行)関連の主な内容
ア.秘密保持契約締結の義務化(改正下請法第12条の3第3項)
2022年2月18日に施行された改正下請法は、下請け事業者が元請事業者に対して技術資料を提供する場合、元請事業者が下請け事業者と技術資料に関して秘密保持契約を締結するように義務づけました。下請け事業者が技術資料を提供する場合、元請事業者は、当該技術資料の提供を受ける日まで、かかる技術資料の範囲、技術資料の提供を受け保有する役職員の名簿、秘密保持義務および目的外の使用禁止、違反時には賠償等の大統領令にて定める事項が盛り込まれている秘密保持契約を下請け事業者と締結しなければなりません(改正下請法第12条の3第3項)。もし、元請事業者が下請け事業者と秘密保持契約を締結しない場合、元請事業者は是正命令、課徴金、罰点および罰金を賦課され得ります。また、公取委は、元請事業者の秘密保持契約締結義務の違反行為に対する課徴金賦課基準等を定める課徴金告示改正案を設け、これは改正下請法とともに施行されます。
なお、改正下請法は、公取委が標準秘密保持契約書の使用を勧奨することができるものと規定し、これに関連し公取委は、標準秘密保持契約書を制定・配布しましたが、主な内容を見てみると、(i)事前の書面同意がある場合を除き、元請事業者は、提供された技術資料を他人に漏らしたり公開してはならず、(ii)目的外で使用してもならず、(iii)秘密保持契約の違反による損害賠償事件において、元請事業者が故意/過失の不存在に対する立証責任を負うものとし、(iv)「技術資料の名称と範囲」を具体的に記載するものとしながら、技術資料の秘密管理性の如何につき、元請事業者が下請け事業者に対して確認を要請することができる内容等が盛り込まれています。
このように、今後元請事業者は、下請け事業者から下請法上の技術資料の提供をうけることになると、秘密保持契約も締結すべきであるという点を熟知しておく必要があります。特に公取委をはじめとする各種規制当局が複数回に亘り、中小企業の技術保護を強化していくという立場を明らかにしてきただけに、今後も厳格な法執行があるものと予想されます。
イ.法院の資料提出命令制度等の導入(改正下請法第35条の2~第35条の5)
改正下請法は、下請法違反行為による損害賠償請求訴訟において、法院が当事者の申請により相手方当事者に対し、損害の証明または損害額の算定に必要な資料の提出を命じることができるものとしました。この際、相手方に提出を拒否する正当な理由があれば、資料の提出を命じることはできないものの、提出の対象となる資料が損害の証明または損害額の算定に必要な場合には、営業秘密に当たるとしても、正当な理由があるものと見ず、法院が資料提出命令を下せるものとしました。
もしも、正当な理由がないにもかかわらず、資料提出を拒否する場合、法院は、(i)資料の記載に対する申請人の主張を真実のものと認めることができ、(ii)さらに、申請人が資料の記載を具体的に主張するには、著しく困難な事情があり、その資料で証明しようとする事実を他の証拠によって証明することを期待するのが難しいときには、申請人が資料の記載で証明しようとする事実に関する主張(例として、元請事業者の発注取消しなど)を真実のものと認めることができるようになりました。
さらに、改正下請法は、訴訟の過程において、営業秘密の漏洩を最低限にするため、秘密審理手続き、秘密保持命令、訴訟記録の閲覧請求通知等の規定も設けましたが、これは今回の改正下請法施行後に提起される損害賠償請求訴訟より適用される予定となっています(改正下請法付則第3条)。
今回導入された法院の資料提出命令制度は、下請法特有のものではなく、すでに施行されている全面改正公正取引法にも盛り込まれています。したがって、公正取引法関連の分野全般において、損害賠償訴訟と関連する新たな制度が導入されただけに、これを巡る様々な問題が提起され得るものと予想されます。仮に、資料提出申請印が資料の記載に関して、具体的な主張をするに著しく困難な事情が何であるか、資料で証明する事実を他の証拠をもって証明することを期待し難い場合はどのような場合なのか、資料が損害の証明または損害額の算定に必要な場合とはどのような場合なのか等につき、当事者における熾烈な攻防が繰り広げられるものと予想され、これに対して事前の対応が必要であるものと判断されます。
3. 改正下請法施行令(2022年2月18日施行)関連の主な内容
ア.保存対象書類の拡大(改正下請法施行令第6条第1項第5号の4)
改正下請法施行令は、元請事業者が保存すべき書類に秘密保持契約書を追加しました。秘密保持契約書の保存義務は、上記で言及したとおり、改正下請法の内容を反映したものとして、元請事業者は秘密保持契約書を取引が終了した日から7年間保存しなければなりません(改正下請法施行令第6条第2項)。これにより、下請法施行令に基づき保管すべき他の書類に比べ、保存期間が長いという点に留意する必要があります。
イ.秘密保持契約書の記載事項の具体化(改正下請法施行令第7条の4)
改正下請法施行令は、秘密保持契約書に盛り込むべき事項を次のとおり規定しています。これは改正下請法の内容を具体化したものとして、技術資料の使用期間、技術資料の返還・廃棄方法および日付等が追加規定されました。
改正下請法施行令第7条の4(秘密保持契約の内容)法第12条の3第3項にて「当該技術資料の範囲、技術資料の提供を受け保有する役職員の名簿、秘密保持義務および目的外の使用禁止、違反時の賠償等の大統領令にて定める事項」とは、次の各号の事項をいう。 1. 技術資料の名称および範囲 |
よって、新たに使用する秘密保持契約書にこのような記載事項の漏れがないか留意する必要があります。
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