大韓民国第20代大統領に尹錫悦(ユン・ソギョル)候補が当選を果たしました。法務法人(有限)世宗の租税グループは、 尹当選者の大統領選挙時に打ち出した公約のうち、租税政策と関連する主な公約とそれに対する示唆点について検討・ご案内させて頂きます。

 

1. 企業競争力の強化

 尹当選者は、企業競争力の強化に向け中小・中堅企業に対する税制支援を公約として発表しながら、△株式買取請求権(ストックオプション)制度の改善、△企業承継の支援、△中小・中堅企業の競争力拡大支援等を提示しています。

ストックオプション制度の改善の場合、ベンチャー企業における優秀人材充員のためストックオプションを行使する際、非課税の限度を現行の5000万ウォンから2億ウォンへと引き上げてインセンティブの強化を図り、非上場またはKONEX(コネックス)上場ベンチャー企業だけでなく、KOSDAQ(コスダック)上場ベンチャー企業に対しても、非課税、行使利益の税金分割納付、譲渡時点の課税繰延等の課税特例における適用範囲を拡大すると明らかにしました。

企業承継の場合、中小企業が長寿企業へと成長できるようスムーズな企業承継に向け、業種変更の制限を廃止し、事後管理の期限を現行の7年から短縮する予定であり、中小企業の計画的な承継支援のための事前贈与制度も改善することとしています。

中小・中堅企業の競争力拡大に向けては、工場の自動化、Eコマースのための物流設備の自動化、クラウドおよびソフトウェア等のデジタル転換投資に対する税制支援を強化し、中小・中堅企業における研究開発、投資の税額控除の拡大、炭素削減技術開発と施設に対する支援、大企業との福祉インフラ共有の際の税制支援計画等を明らかにしました。
 

 

2. 金融先進化

尹当選者は、金融先進化に向け、個人の金融投資に対する税制支援の方向性を明らかにしましたが、コイン投資収益5000万ウォンまでは完全非課税とし、個人(少額)投資家に対しては、株式譲渡所得税を廃止し、証券取引税を適正水準で維持する方案を提示しました。

 

3. 福祉支援

尹当選者は、福祉社会建設に向けた税制支援として、△寄附者に対する税額控除の限度引上げ、△勤労奨励税制の対象および支援金額の拡大、△庶民住居費用の緩和支援等を掲げています。

寄付文化を拡散するため、寄付参加率を向上させることができる制度的環境を設けるため、個人寄附者に対する税額控除の限度を引上げ、年末精算における個人寄附者の税額控除限度を5%追加引上げするという姿勢を見せています。

懸命に働く労働者のために勤労奨励税制(EITC)を通じた支援対象と支援金額を拡大することとしながら、勤労奨励金の資格要件のうち、所得・財産要件について緩和し、最大支給額を引き上げることとしました。

区分 現在 勤労奨励金の拡大公約
世帯員の構成 総所得基準金額 最大支給額 総所得基準金額
(20%UP)
最大支給額
(10%、20%UP)
単独世帯 2000万ウォン 150万ウォン 2400万ウォン 165万ウォン(10%UP)
片働き世帯 3000万ウォン 260万ウォン 3600万ウォン 312万ウォン(20%UP)
共働き世帯 3600万ウォン 300万ウォン 4320万ウォン 330万ウォン
(10%UP)

また、庶民住居費用の負担緩和に向け、チョンセ(韓国特有の制度として、家賃を毎月払うのではなく、賃貸開始の時にチョンセ金を賃貸人に預り、賃貸終了の時に返還を受ける制度のことです。)資金貸付の元本金利返済額に対する所得控除率を拡大する方向へと進めますが、具体的には、所有住宅のない世帯主である労働者として、国民住宅規模の住宅の賃借人は、所得控除率を40%から50%に、控除額の限度を300万ウォンから400万ウォンへと各々拡大し、総給与額7000万ウォン以下、総合所得6000万ウォン以下の無住宅者の場合、国民住宅規模以下または基準時価3億ウォン以下の住宅の場合、税額控除率を2倍引上げ、年の家賃額の限度を750万ウォンから850万ウォンに引き上げるなど、庶民・中流層における住居費用の負担軽減の方向性を提示しています。

 

4. 不動産税制の正常化

尹当選者の公約のうち最も注目を浴びている分野として、△住宅賃貸市場の正常化、△賃貸住宅の活性化、△不動産の所有および譲渡関連の税制の正常化の方案等があります。

住宅賃貸市場の正常化は、賃借人の住居安定の強化に向けたものとして、市場与件を考慮し専用面積60平方メートル以下の買い取り賃貸用の小型マンション(アパート)の新規登録を許容し、総合不動産税の合算課税の排除、譲渡所得税の重課税排除(10年以上長期賃貸住宅の譲渡所得税の長期所有控除率の引上げ)等の税制メリットを与えるなど、登録賃貸事業者の支援制度を再整備し、公共賃貸住宅とともに民間賃貸住宅を活性化させ、チョンセ・月極賃貸不足・高騰の解消をサポートする計画です。

不動産税制の正常化は、TFを構成して不動産税制を不動産市場の管理目的ではない租税の原理に合わせて改編し、納税者の負担能力を考慮し、保有(所有)税の賦課水準と変動幅を調整する方向で進められますが、総合不動産税は、長期的に地方税である財産税と統合し、公正市場価額比率を現在の水準の95%で凍結し、1住宅所有者の税率を文政権発足以前の水準まで引き下げ、税負担増加率の上限を1住宅所有者、非調整地域における2住宅所有者は、150%から50%に、調整地域における2住宅所有者、3住宅所有者および法人については、300%から200%へと各々税負担の増加率の上限を引き下げます。また、1住宅長期所有者に対し、年齢とは無関係に、売却・相続の時点までの納付繰延を許容し、公平性を保つため所有住宅の戸数による差等課税を価額基準課税へと転換します。

譲渡所得税の改善に関連し、住宅多数所有者に対する重課税率の適用を最大2年間一時的に排除し、不動産税制の総合改編の過程において、多数所有者の重課税政策を再検討するものとしています。

取得税の改善に関連し、1住宅所有者の円滑な住居移動を保障するため、1~3%の税率を単一化する、または税率適用区間を単純なものとし、単純累進税率を超過累進税率に転換し、初めて住宅を購入した者につき、所得税の免除または1%の単一税率を適用し、調整地域における2住宅以上の所有者に対する累進課税を緩和する予定です。

 

5. その他の税制公約

その他にも、国内復帰企業を支援するため、国内復帰をする企業に対する税額減免(最初の5年間100%、その次の2年間50%の所得税または法人税の減免)要件を緩和していますが、現在国外事業所の譲渡・閉鎖後2年以内に国内事業所の新設・増設を完了する必要があった部分を、3年以内に国内事業所の新設・増設を行うと、税額を減免するものとしました。

小規模事業者、自営業者をサポートする一環として、賃貸料ナヌム(分け合い)制を通じた持続的経営の安定支援を推進しつつ、零細自営業者の賦課税の負担を一時的に50%軽減し、賃貸人の賃貸料引下げ分につき、一時的に全額税額控除を行い、消費者の先決済の税額控除率を一時的に拡大します。

青年支援のためには、労働・事業所得のある青年(19~34歳)の中長期財産形成をサポートするため、「青年跳躍口座」(一定限度内で貯蓄すると、政府が加入者の所得に応じ奨励金を支給し、10年満期を迎えると1億ウォンの資産形成、高所得の場合には、直接奨励金を支給する代わりに、非課税および所得控除メリットの付与)を導入し、後継農の営農家業承継のための相続税の控除価額を上方修正し、青年が夢を実現できる農村づくりをサポートすることになります。

老後生活の支援に向け、60歳以上の1世帯1住宅所有者(自宅居住)世帯が住宅ダウンサイジング後に差額を個人退職年金(IRP)等に払い込む場合、年金所得税、譲渡所得税、取得税等を軽減します。

科学技術先導国家への支援としては、クラウド・コンピューティング研究開発の投資企業に対する法人税控除などの「クラウド・インセンティブ制度」を導入し、関連税制を整備しAI半導体、モビリティサービス産業等の技術革新を誘導し、デジタル経済覇権国家へと跳躍することをサポートし、大幅な租税・金融支援を通じて民間投資の2倍増加へと誘導します。

文化芸術体育強国の支援に向け、文化費用に対する所得控除の限度を拡大し、炭素中立等の気候変動危機への対応支援のために、エネルギー節約施設や炭素削減R&Dおよび投資への租税支援を拡大していきます。

 

6. 示唆点

尹当選者の大統領選挙での公約は、コロナショック等により低迷していた経済に活力を与え、企業の成長を促進する一方、低所得者と高齢者等に対する福祉支援を税制面で支え、市場を歪曲し国民の負担を増大させている不動産税制を正常化することに焦点を合わせています。

まず、企業活力を向上させるため、中小ベンチャー企業が優秀人材の確保ができるよう、ストックオプションに対する非課税限度を拡大し、中小企業の家業承継支援を拡大して世代を経て成長を続けていけるように誘導し、中小・中堅企業のデジタル投資、研究開発に対する税制支援、海外事業所を廃止/縮小し、国内へと生産拠点を戻す企業等に対する税制支援を拡大する予定です。

また、働く福祉を強化するため、勤労奨励金を受けられる労働者の範囲を拡大する一方、低所得者と高齢者、青年、賃借人等に対する税制支援を強化する予定です。

なお、2023年から課税予定となっている個人の小額投資家における上場法人株式に対する譲渡所得税は、個人投資家の侵入障壁を低くし、資本市場の持続的な発展に向けて課税廃止を行いながら、証券取引税を適正水準で維持していく予定であると発表されましたが、金融所得課税の先進化に向け、2020年末に株式譲渡差益等を金融投資所得として分類し、2023年から課税するものと所得税法を改正したものの、わずか1年半も経たない状態で、再度これを原点に戻すことは、多くの論争の余地があるだけでなく、金融投資所得のうちの株式譲渡差益のみを除外すると、所得種類における公平性にも問題があり、また全体の個人投資家の2%程度が恩恵を受けることとなるため、富裕層への減税という批判の余地も存在するなど、同部分はより慎重に検討を進める必要があるものと思われます。

また、現政府における不動産所有等に対する過度な課税政策により、住宅市場の歪曲等が生じたという批判があったものの、新政府ではこれを是正するため、不動産税制の総合的な改編に向けてTFを設置し、総合不動産税、譲渡所得税、取得税等を現実的なものへと調整し、不動産税制の正常化を図って行く予定です。

まず、多数住宅所有者に対する税金重課を緩和するものと予想され、総合不動産税の緩和と同時に、譲渡所得税の重課税率の適用を排除すると、住宅供給を誘導する効果相殺が起こり問題があるため、先に譲渡所得税の重課税率の適用を一時的(1年程度)に排除し、多数住宅所有者の住宅が市場に供給されるよう誘導していく予定であり、総合不動産税は、所有住宅の数ではなく、所有住宅の価額に応じて賦課し、多数住宅所有者に対する重課税率を廃止していくものと予測されます。

なお、総合不動産税は、財産税とその課税対象が同じとして重複課税の問題があるため、中長期的には、総合不動産税を財産税に統合し、比例税率により課税する方法を検討していくものと予想されます。

 

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