尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領(以下「尹大統領」といいます。)の仮想資産に関する公約は、仮想資産を制度権へと編入するための「法制化」と「投資家保護装置づくり」に焦点が合わさっています。下記では、尹大統領の政策公約集と主なマスコミ関連のインタビューを通じて明らかになった尹大統領の仮想資産関連の公約について検討し、各公約の示唆点についてご説明させて頂きます。

 

1. デジタル資産基本法の制定 

尹大統領は、仮想資産について「デジタル資産基本法」を制定し、(1)不公正取引を通じた不当利益を償還し、(2)デジタル産業振興庁の設立、(3)デジタル資産取引口座と銀行とを連携させる専門金融機関(いわゆる「コイン専門銀行」)を指定する計画を明らかにしました。

現在の資本市場と金融投資業に関する法律(以下「資本市場法」といいます。)が適用されない仮想資産の取引には、時価操作・未公開の重要情報利用行為・不正取引等の不公正取引規制もやはり適用されておらず、事実上、投資家を保護する装置が皆無な状況でした。これにより、尹大統領の仮想資産に関する不公正取引の不当利益償還の公約は、仮想資産投資家を保護するため、仮想資産に対しても資本市場法上の不公正取引規制と類似する不公正取引防止システムを樹立するというものと思われます。現在の資本市場不公正取引に対する調査・制裁の体系が一次的に韓国取引所の市場監視機能に依存していることを考慮すると、今後、仮想資産取引所は市場監視のためのインフラ構築が求められる可能性があります。ただし、仮想資産は、複数の取引所において同時取引がなされ、価格制限幅と同時呼び値システムが存在せず、合意のある公示体系も存在しないという側面から、資本市場法上の不公正取引規制システムをそのまま適用することは困難と見られるところ、仮想資産市場におけるどのような行為を禁止して制裁するのかに対する社会的な議論が先行すべきものと思料されます。

デジタル産業振興庁は、仮想資産に関するコントロールタワーとしての機能を担うものと知られており、仮想資産に対する政策の樹立と監督等の義務を総括しつつ、関係部処(機関)間の協業システムを運営するものと思われます。デジタル産業振興庁は、仮想資産に関する規制と振興の役割を全て担っていくものと思われるものの、設立の形態および方法等は未だ具体的にはなっていません。

コイン専門銀行の許容に関する公約は、尹チャンギョン議員が2021年8月6日に代表発議した「特定金融取引情報の報告および利用等に関する法律案」の内容と類似していますが、上記法律案は、金融情報分析院長がコイン専門銀行を指定し、仮想資産事業者において正当な事由なく、コイン専門銀行からの実名確認出入金勘定が提供されない場合、金融情報分析院長が必要な要件の検証を行い、専門銀行をもって実名確認出入金勘定の開設が可能にすることを主な内容としています。上記のようなコイン専門銀行制度が施行されれば、現在銀行から実名確認出入金勘定の発給がされないため韓国貨幣(WON)マーケットを運営できずにいる中小型仮想資産取引所において、韓国貨幣マーケットを運営できるようになり、多様な新規事業者らのマーケット進出の機会になり得るものと予測されます。

 

2. ICO(Initial Coin Offering)の許容

政府は、2017年9月29日にどのような形態のICOについても禁止するという意を明らかにしたものの、これまでICOが法律に基づき禁止されるのかについては、明確でない状況でした。尹大統領は、段階的にICOを許容し、企業が仮想資産を通じて資金調達することを許容する旨を明らかにしています。ただし、ICOを全面的に許容する場合、投資家がピラミッド式等の詐欺被害に晒される事態を考慮し、仮想資産取引所を通じてICOを行う方式のIEO(Initial Exchange Offering)を優先許容するとしています。

IEOは、プロジェクトチームが仮想資産を発行した後、仮想資産取引所と委託販売契約を締結し、仮想資産取引所がこれを代行販売したり、仮想資産取引所が自己の計算により仮想資産を購入した後、これを投資家らに販売することを意味します。上記のIEOモデルには、各仮想資産取引所のプロジェクト評価能力と手続きが重要となるため、各仮想資産取引所としては、現在の仮想資産取引支援の審査基準と手続きを発展させる必要があります。

 

3. 仮想資産の収益非課税の拡大

尹大統領は、仮想資産に関する譲渡差益基本控除を株式と同レベルの年5000万ウォンへと上方修正すると公約しています。また、仮想資産譲渡差益について「先整備後課税」の原則を明らかにしているため、2023年1月に猶予されている仮想資産譲渡差益に関する課税のタイミングが追加延期される可能性もあります。

 

4. P2E Gameの許容の如何

現在国内では、射幸性を理由にゲームを通じて金銭等を獲得できるゲーム(P2E、Play To Earn)は許容されていません。尹大統領は、P2Eに対する規制緩和を公約しているものの、最終版の公約集には、「P2E Gameの許容および産業活性化のための規制撤廃」に対する内容が盛り込まれてはおらず、多少慎重な立場をとっているものと思われます。ただし、尹大統領が引き続きゲーム産業の発展を強調してきたという点から、仮想資産に対する投資家保護手段の設置と合わせ、P2E Gameに対する規制緩和が行われる可能性もあると予測されます。

 

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