賃金ピーク制とは、労働者らが一定の年齢に達することを基準として賃金を減額する制度であるため、年齢を理由に労働者に対して不利益を与える制度であると言えます。よって、これは年齢による差別に当たるとみることができるため、合理的な理由がなければ、その有効性が問題になり得ます。これまで賃金ピーク制に関連しては、このような年齢差別に関する論争が続いており、特に停年を延長する賃金ピーク制の場合とは異なり、停年を維持する賃金ピーク制の場合には、高齢者の賃金削減のみを目的とするものであるため、合理的な理由のない年齢差別に該当するという見解も出ています。それにもかかわらず、ほとんどの事業所において号俸制を採用している状況で、実質的な労働能力および成果は落ちるにもかかわらず、長期勤続に基づき高い賃金を得る労働者が増えることにより、賃金ピーク制は合理的な賃金体系の改編策として受け入れられてきました。さらに、高齢者雇用法において満60歳を法的停年と規定することにより、多くの事業所で強制的に停年が延長され、政府は賃金ピーク制を停年延長による賃金体系改編の一環として勧告してきました。

しかし、賃金ピーク制の導入に関連し、具体的な法的規制がなく、各会社別に労使合意に基づき多様な形態・内容の賃金ピーク制が導入されており、一部の事例では、賃金ピーク制による対象社員らの不利益が非常に高いケースが発生したりもしています。これにより、ソウル高等法院を中心に、賃金ピーク制の実質的な内容を審理し、年齢差別に合理的な理由があるか否かについて判断を行ってきており、今回の大法院判決もやはり、それの延長線上にあるものと思われます。

当該判決によると、A研究院は、労働者らの停年延長なく、55歳以上の労働者に対して賃金ピーク制を導入しましたが、同賃金ピーク制の下では、社員が満55歳になると、それ以前の役職および能力等級に関係なく、一定の役職と能力等級が適用される結果、基準年給と成果評価に基づく変動年給が減額されます。ところが、賃金ピーク制の導入後にも、55歳以上の労働者らにおいて業務内容の変更はなく、51歳以上55歳未満の労働者らの業務成果が55歳以上の労働者らの業務成果に比べて低いものとなっていました。それにもかかわらず、満55歳以上の労働者は、賃金ピーク制により減額された賃金を受け取ることとなっていたため、このような方式の賃金ピーク制は、合理的な理由がない年齢差別に当たり無効であるということが、一審と二審での一貫した法院の立場であり、大法院は最終的にこれを確認しました。

このような事実関係に照らし合わせてみると、今回の大法院判決が一部マスコミの報道等を通じて言及されているように、賃金ピーク制の全般に関して無効を宣言した判決とは見難いです。ただし、注目すべき点は、大法院が一般論として、賃金ピーク制の実体的な有効要件を提示したということです。すなわち、賃金ピーク制が労働者の過半数の同意を得て導入されたとしても(手続的要件)、『賃金ピーク制の導入目的の妥当性、対象労働者らが負う不利益の程度、賃金削減に対する補償措置の導入の有無およびその適正性、賃金ピーク制によって減額された財源が賃金ピーク制導入の本来の目的のために使用されているのか等』を考慮して有効性について判断すべきであるというものです。

今回の大法院判決により、賃金ピーク制の対象となった従業員らが、賃金ピーク制の有効性に対する法院の判断を求めるために訴訟を起こす可能性が高まり、賃金債権の消滅時効が3年という点を考慮してみると、すでに退職している者も、賃金ピーク制訴訟を提起するようになると予想されます。さらに、これにより、過去の通常賃金訴訟のように、賃金ピーク制を巡る訴訟が発生する可能性もあります。

このような点を考慮すると、賃金ピーク制を導入している事業所においては、大法院の判示した内容を考慮し、従前の賃金ピーク制の有効性について事前の検討を行い、必要な場合には、これを改善する努力を行うべきであると思われます。これに関連し、大法院の判決が賃金ピーク制の有効性に関して具体的かつ明確な基準を提示したわけではないため、実際に賃金ピーク制の点検・改善を進めるにあたり、専門性の高い法律専門家からアドバイスを得ておくことが非常に重要であると思われます。

法務法人(有限)世宗は、賃金ピーク制に関連し、長年に亘り蓄積された豊富な知識と訴訟経験を有しております。賃金ピーク制に関してアドバイス等が必要な場合には、いつでもご連絡頂ければ幸いでございます。

 

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