[1]「新政府エネルギー政策の方向」の発表背景

政府は、2022年7月5日(火)大統領主宰の国務会議において関係部処合同で「新政府エネルギー政策の方向」を審議・議決して最終確定することとなりました。「新政府エネルギー政策の方向」は、2030年における全発電のうち原発の割合が30%以上など、エネルギーミックスの再定立、『資源安保特別法』の制定を通じた資源安保体系の構築、エネルギー供給を中心としていたものから、需要の効率化を中心とする政策の転換、直接電力取引(PPA)の拡大を通じた電気独占販売構造の解消を主な内容とするなど、新政府の大統領選挙公約を具体的なものとしました。

 

[2]「新政府エネルギー政策の方向」の主な内容

区分 政策内容 詳細
エネルギーミックスの再定立 原発割合の拡大 • 新ハンウル3・4号機建設の迅速な推進、原発の継続運転等を通じ2030年における全発電のうち、原発割合を30%以上へと拡大
再生可能エネルギー割合の調整 • 実現可能性・住民受入性を考慮し太陽光・風力等の再生可能エネルギーの適正割合の模索
※ 現在樹立中の「第10次電力需給基本計画」に反映する予定
電力網の構築 • 再生可能エネルギー系統の安定化に向けた方案づくり、『分散エネルギー活性化特別法』の制定  
資源安保 特別法の制定 • 『資源安保特別法』の制定、資源安保コントロールタワー(資源安保委員会、資源安保センター等)の構築、資源安保の範囲拡大
※ 核心資源(石油、ガス、石炭)だけでなく、鉱物、水素、再生可能エネルギー、ウラン等も資源安保の範囲に含む
石油・ガス • 政府における石油備蓄の拡大、LNG貯蔵施設の拡大、ガス公社貯蔵施設の民間共同利用の拡大、民間LNG直輸入の拡大等を推進
エネルギー需要の効率化 企業需要の管理 • 年間20万TOE以上のエネルギー多消費企業を対象とする効率革新目標設定協約の推進
輸送部門の管理 • 電気自動車における電力消費の等級制、中型・大型ワゴン車・貨物車の燃費制度の導入
電力市場の構造改善 市場独占の解消  • 直接電力取引(PPA)の許容範囲の拡大を通じ独占販売構造の漸進的な解消
電気料金 • 段階的な価格入札制(PBP)への転換および需要側(販売事業者等)も入札する両方向型の入札制度の導入
• 総括原価補償原則の確立および原価連携型の料金拡大

 

[3]示唆点

「新政府エネルギー政策の方向」は明示的に『本政策方向が2017年10月「エネルギー転換(脱原発)ロードマップ」と2019年6月の「第3次エネルギー基本計画」等、前政権におけるエネルギー政策を代替するもの』であると明らかにしています。

特に、2030年までに原発を18基(2021年基準で24基)に減らし、全発電の割合の中、原発の割合を23.9%(2021年基準で27.4%)に調整することとした前政権の「2030国家温室効果ガス減縮目標(NDC)」を取り止め、2030年までに原発を28基へと増やし、全発電に占める原発の割合が30%以上になるようにするなど、新政府の原発拡大の基調をより強固なものとするための具体的な内容が提示されています。

反面、新再生可能エネルギーに関連し、太陽光・風力等の産業生態系の競争力を強化するための方案として、関連技術の開発、専門人材の養成支援等を言及しているものの、関連政策の具体的な実行を裏付けるほどの方案は提示されておらず、その実行においては、多少時間がかかるものと見られます。また、市場原理に基づく電力市場の構造を確立するという目標の下、直接電力取引(PPA)の許容範囲の拡大等を言及しているため、直接電力取引の対象となるエネルギーの種類や直接電力取引に参加できる当事者の範囲がどこまで拡大されるのかなど、これに関する追加の立法過程についても引き続き注視していく必要があります。

現在は、大統領職引受委員会の海上風力「速度調節論」、風力発電に係る許認可および関連行政手続きの支援に向けた「風力発電普及促進特別法案」の国会処理の遅延、緊急精算上限価格制(SMP上限制)の導入予定等により、新・再生可能エネルギー業界が抱えている問題が重みを増している状況であり、当分の間は、新・再生可能エネルギー関連の政策の不確実性も持続するものと思われます。

ただし、新政府がBIPV(建物一体型の太陽光)常用化R&D、IoT・ビックデータ基盤の海上風力O&Mサービス産業育成等の一部の新・再生可能エネルギー事業に関連し、新たな市場を開拓するという意思をみせているだけに、新・再生可能エネルギー業界としては、政府政策に足並みを揃えた柔軟な対応が必要となるタイミングであるものと思われます。

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