取締役会の性別構成に関する特例を規定している資本市場と金融投資業に関する法律(以下「資本市場法」といいます。)165条の20が、2022年8月5日より施行される予定です。これにより、最近の事業年度末の資産総額が2兆ウォン以上となる株券上場法人は、取締役の構成に関して、全員を特定の性別だけで構成されてはなりません。
上記条項は、別途の罰則条項を定めてはいないものの、国内の議決権諮問機関および機関投資家は、同法に基づき、これまで海外で適用されてきた取締役会の多様性の判断基準を国内でも適用する可能性が高いです。
特に最近では、欧州議会と取締役会は、上場会社における社外取締役の性別バランスの改善に関する指針(DIRECTIVE OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on improving the gender balance among non-executive directors of companies listed on stock exchanges and related measures、以下「本件指針」といいます。)につき、暫定的に合意しました。欧州議会と取締役会が本件指針を公式承認して採択すると、EUの公式官報である(欧州連合官報、Official Journal of the European Union)において掲示20日後に効力が生じ、EU加盟国はこれより2年以内に国内法の制定・改正を行い、本件指針を施行することとなります。
本件指針の主な内容をみると、次のとおりになります。
◆ 上場会社の社外取締役のうち最低40%、全取締役のうち最低33%は、少数派となる性別でなければならない。
◆ 性別にかかわらず、能力に応じた客観的な評価を通じて明確かつ透明な取締役の選任手続きを経なければならない。
- 社外取締役の選任時に、性別が異なる2名が同等に資格を有する場合、性別のバランス目標を達成できていない企業は、少数派となる性別の候補に対して優先権を与える
- 選任されていない候補者が要請する場合には、資格基準を公開する
- 社内取締役の性別バランスを達成するために個別の努力を行う
- 性別バランス目標を達成できない場合には、理由と改善策を報告する
- 国内法に本件指針の適正な履行を担保するための規定(違反時には罰金の賦課、取締役選任の無効または取消等)の挿入
本件指針が承認され、EU加盟国が国内法に含まれる場合、大韓民国においても関連法令、企業支配構造の模範基準、議決権の諮問機関と機関投資家における議決権行使ガイドライン等の海外ベンチマーキング事例としての活用が予想されます。
参考として、公示資料を通じて検討した海外議決権の諮問機関と機関投資家の取締役会における多様性に関連する、最近の議決権行使の動向については、次のとおりです。
議決権諮問機関 | |
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ISS1 | 取締役会の性別規制に従わない場合、取締役候補推進委員会の委員長またはシニア構成員等の取締役候補推薦に責任を有する者の選任について反対することを勧告。ただし、代表取締役や設立者、社内取締役および議長は、株主価値に重要なマイナスの影響を与えない限りは、反対しない。 |
Glass Lewis2 | 取締役会の性別規制に従わない場合、取締役候補推薦委員会の議長または取締役会議長の選任について反対することを勧告。ただし、取締役会への懸念が単なる性別の多様性に限っての場合には、反対しない。 |
機関投資家 | |
BlackRock3 | 女性取締役がいない場合、これに関して責任を有する取締役の再選任に反対することができる。 |
• 2021年に988社、2022年第1四半期(1~3月)に66社において多様性不足を理由に、取締役の選任について反対した。 | |
Vanguard4 | 日本ガイドラインでは、TOPIX100指数の構成会社における取締役会において、女性がいない場合、取締役候補推薦委員会の委員長または取締役会議長またはCEOの再選任について反対した。 |
• 2021年に556社に対して取締役会の多様性に係る株主参加活動(Engagement)を履行し、206社に対して取締役会の多様性不足を理由に、取締役の選任について反対した。 | |
State Street5 | 日本ガイドラインでは、取締役会に女性がいない場合、取締役候補推薦委員会の委員長または取締役会議長の再選任について反対し、3年連続で取締役会に女性が存在しない場合には、取締役候補推薦委員会の全員または取締役候補推薦手続きに責任を有する者の再選任について反対した。 |
• 2021年に220回、2017年以降は1548の企業に対して取締役会の多様性に係る株主参加活動の履行、そのうちの948社が最低1名以上の女性取締役を追加選任した。 |
海外の議決権諮問機関は、国内企業対象のガイドラインに、改正資本市場法の規定と同様の内容の規定を定めているものの、未だに同法が施行されていないため、これに機械的に従うというよりも、企業の具体的な経営環境を追加で考慮することができるように但書条項を設けています。また、海外の機関投資家においても、個別の案件ごとに、取締役会の性別多様性不足が当該企業価値に及ぼす影響について分析し、その結果に応じて、議決権を行使しているものと思われます。しかしながら、改正資本市場法の規定の猶予期間が過ぎたことにより、同規定が公式施行されると、取締役会の性別多様性の未充足は法律違反となるため、関連法令を必ず遵守すべきであるという方向でガイドラインの内容が強化される可能性があります。
国内の議決権諮問機関および国民年金等の国内機関投資家においては、未だに改正資本市場法の規定を反映した議決権行使ガイドラインの提示を行っていません。しかしながら、今後、本件指針および海外の議決権諮問機関と機関投資家の動向、国内外における立法事例を参考にし、議決権行使のガイドライン改正を行う可能性があるため、引き続きその動向に注視する必要があります。
1 ISS Korea Proxy Voting Guidelines(2022年2月1日株主総会より適用)
2 Glass Lewis 2022 Policy Guidelines — Korea(2022年1月1日株主総会より適用)
3 BlackRock, Proxy voting Guidelines for Asia ex Japan, Hong Kong, and Chinese securities, Effective as of January 2022; Investment Stewardship Annual Report, 2021; By the numbers-BlackRock Investment Stewardship 1Q 2022 statistics.
4 Vanguard, Proxy voting policy for Japanese portfolio companies, effective April 1, 2022(アジア/韓国に対する別途ガイドラインはない); Investment Stewardship 2021 Annual Report.
5 State Street Global Advisors, Proxy Voting and Engagement Guidelines, March 2022 Japan(アジア/韓国に対する別途ガイドラインはない); 2021 Asset Stewardship Report.
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