[1]第10次電力受給基本計画実務案の記者会見

電力需給基本計画の諮問機構である総括分科委員会は、2022年8月30日(火)の記者会見を通じ、第10次電力需給基本計画の実務案(以下「本実務案」といいます。)を公開しました。電力需給基本計画は、電気事業法第25条に基づき、電力需給の安定に向けた電力需要を予測し、これによる電力設備と電源構成を設計する中長期(15年)計画となっています。産業通商資源部は、本実務案に基づいて国会常任委への報告、公聴会における意見取纏め等の後続手続きを行い、電力政策審議会議における審議を経て第10次電力需給基本計画を確定する予定です。

 

[2]主な内容

本実務案は、2036年の最大電力需要を117.3GWとして展望しており、2030年の電源別の発電量の割合は、原発32.8%、石炭21.2%、LNG20.9%、新再生可能エネルギー21.5%等との計画を立てています。具体的には、原発は現在運営中の12基の継続運転および6基の新規原発建設を反映しており、2021年10月に発表された2030国家温室効果ガス減縮目標(NDC)の引上げ案(以下「NDC引上案」といいます。)に比べ、その割合が大幅アップ(24.9% → 32.8%)しており、また、新再生可能エネルギーについては、住民受入性および実現可能性等を考慮し、NDC引上案に比べ大きく引き下げ(30.2% → 21.5%)ており、LNG発電の場合、NDC引上案に比べ、小幅調整(19.5% → 20.9%)としています。

そして、政府は、段階的な価格入札制度*および両方向入札制度**の導入を推進する計画であり、単一市場のリスク分散を行い、電力市場の多角化に向けて先導できる市場を開設し、リアルタイムおよび補助サービス市場の導入を計画しているとしています。また、新再生可能エネルギーに関連し、個別PPAの許容範囲を漸進的に拡大することにより、これまで法令に基づいて単一規律されてきた新再生可能エネルギーの電力市場料金の決定および規制ガバナンスにおける、独立性と専門性の強化を図ろうとしています。

* 価格入札制度(PBP):現行の変動費反映市場(CBP)とは異なり、発電会社が直接価格を入札して落札した発電機を通じ、市場における電力取引を行う制度
** 両方向入札制度:電力の供給サイドだけでなく、需要サイドも入札する制度

 

[3]示唆点

本実務案によると、10次電力需給基本計画の核心は、「脱原発の取り止め」と「エネルギー安保の強化」にあります。特に、ロシア対ウクライナにおける軍事争いにより、世界的にエネルギー供給の面において大きな混乱が予想されているだけに、このようなエネルギー危機への対応に向け、従来の原発の継続運転と新規原発の建設を通じた韓国におけるエネルギー自立度を高めようという計画を提示したものと分析されます。

原発の場合、第9次電力需給基本計画およびNDC引上案に比べて、その割合が大きく増加しています。これは、現政府の脱原発政策の取り止めの方向性に歩調を合わせたものと思われます。これにつき、放射性廃棄物の処理施設設置の問題、住民における受入性の確保問題等が原子力発電の確保に関連する主なイシューとして提起されるものと予想されます。

新再生可能エネルギーの場合、NDC引上案に比べてその割合が大幅に減少しています(第9次電力需給基本計画と比べると小幅増加)。これは、NDC引上案が提示している目標値が過剰に非現実的なものであるという反省からきていると見られるものの、これについては、海外の先進国における新再生可能エネルギー産業促進の政策の流れに合致していないという若干批判的な見方があるものと思われます。

LNG発電の場合、9次電力需給基本計画およびNDC引上案に比べ、割合が小幅調整されているだけで、大きな変動はないものの、これまでのLNG発電事業者らの間で問題となっていた老朽化設備の新規設備への代替と関連する事項が盛り込まれておらず、新規設備へと変更する必要があるLNG発電事業者における反発も予想されます。

このように、本実務案が発電事業者らに及ぼす影響は、決して少ないものとは言えないため、発電事業者としては、10次電力需給基本計画にかかる議論状況を見守りながら、公聴会等の意見取り纏めの過程に積極的に参加して意見を明らかにしていく必要があるものと思われます。

 

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