1.はじめに

最近、国務調整室の政府合同腐敗予防推進団は、全国226の地方自治団体のうち、12の地方自治団体を対象として太陽光発電に関連する「戦略産業基盤基金事業」運営実態に対する第1次合同点検を行った結果、合計2267件の違法・不当事例を摘発し、これに対する捜査依頼、また全国的な調査の拡大を行うことにしたと明らかにしました。これにつき、国務調整室は、点検対象の事業費約2兆1,000億ウォンのうち、約12%に当たる2,616億ウォンが不適切使用のものと調査されたことと明らかにしながら、不当支給された補助金等を還收するなどの策を講じると発表しました。

本ニュースレターでは、上記のような背景を考慮し、電力産業基盤基金およびこれを基盤として『発電所周辺地域支援に関する法律』(以下「発電所周辺地域法」といいます。)に基づいて支給された支援金(補助金、電力産業基盤基金執行金額の総額2,616億ウォンのうちの583億ウォン)還收処分の事由や限界はどのようなものであり、さらに、他の制裁処分が懸念される場合はないのかについて紹介させて頂きます。

 

2.電力産業基盤基金およびこれによる補助金の支給

電気事業法第48条は、電力産業の持続的な発展と電力産業の基盤づくりに必要な財源の確保に向け、「電力産業基盤基金」を設置するものと規定しており、電力産業基盤基金は、新・再生可能エネルギー発電事業者に対する支援事業、電力需要の管理事業、発電所周辺地域法に基づく周辺地域の支援事業等のために使われます(電気事業法第49条)。

上記電気事業法第49条第9号に関連し、発電所周辺地域法第13条は、発電所周辺地域に対する支援事業にかかるコストである支援金を、電力産業基盤基金から充当するものと規定しているところ、これは『補助金管理に関する法律』(以下「補助金法」といいます。)における地方自治団体等に交付される補助金にも該当します(補助金法第2条第1号)。

今回の電力産業基盤基金事業運営実態調査において、補助金の違法・不当執行として問題となったのは、上記のごとく、電力産業基盤基金を基盤として発電所周辺地域法に基づいて支給された支援金です。すなわち、国務調整室は、合同点検の結果、支援金を使用すべき発電所周辺地域支援事業の管理および執行が不適正に行われたということを理由に、支給済みの支援金(補助金)の還收を行おうというものです。1

 

3.補助金回収処分の根拠および限界

ア.補助金の返還・還收処分の根拠法令および要件

発電所周辺地域法は、第16条の4において、同法第16条の3に従い、発電所周辺地域の支援事業が取りやめになった場合には、支給済みの支援金のうち、執行されなかった支援金の回収が可能であると規定していますが、発電所周辺地域支援事業の管理および執行が不適正に行われたという事情は、上記発電所周辺地域法第16条の4にて規定する支援金回収の要件には該当しません。

しかしながら、電力産業基盤基金から支援された支援金は、政府が支給した補助金にも該当するところ、政府は、補助金法上の補助金還收処分が可能な場合に当たると見做し、還收処分を行うものと思われます。

すなわち、補助金法では、補助事業者が補助金を支給目的とは異なる用途で使用したか、または虚偽の申請その他の不正な方法を通じて補助金交付を受けるなどによって「不正受給」を行った場合には、補助金交付決定の全部または一部が取り消しとなり、これによって支給済みの補助金とその利子について返還するものと規定しています(補助金法第30条、第31条第1項、第33条第1項)。

このような補助金不正受給の事例のうち、「虚偽の申請その他不正な方法」の意味につき、大法院は「正常な手続きによっては補助金の支給を受けられなかったにもかかわらず、偽計・その他社会通念上不正であると認められる行為により、補助金の交付に関する意思決定に影響を及ぼしうる積極的および消極的行為を意味する」と判示しながら、「不正な方法により補助金の交付を受けた場合とは、補助金の交付対象とならない事務または事業に対して補助金を受け取ったり、当該事業等に交付されるべき金額を超えて補助金の交付を受けること、とし、補助金交付にあたり、多少正当性が欠如しているものであると見る余地がある手段が用いられたとしても、補助金の交付を受けるべき資格のある事業等に対して、正当な金額の交付を受けた場合には、ここに該当しない」と判示しています(大法院2007年12月27日宣告2006ド8870判決等の参照)。これにより、不正な方法により補助金の交付を受けたということを理由とする補助金還收処分が問題となる場合、補助金の支給を受けた具体的な手段と態様、不当支給された補助金の範囲、および支給済みの補助金の正当性について積極的に争う必要があります。2

 

イ.補助金の返還・還收処分の限界

補助金の返還・還收処分が行われたとしても、大法院は、「虚偽や不正な方法により支給された補助金に「限り」これを返還することを命じなければならず、正常な支給を受けた補助金についてまで返還するよう命じることができるわけではない」と判断しているところ(大法院2019年1月17日宣告2017ドゥ47137判決参照)、補助金が可分的な評価により算定・決定されたものであるため、補助金のうち「虚偽や不正な方法によって支給された部分」と「正常に支給された部分」とを区分できるのであれば、「虚偽や不正な方法によって支給された部分」に限り、補助金の還收ができるものと思われます。

また、一定の行政処分により、国民が一定の利益と権利を取得した場合に、従前の行政処分に瑕疵があることを前提として、職権によりこれを取り消す行政処分は、既に取得している国民の既存の利益と権利を剥奪する別個の行政処分として、取り消される行政処分に瑕疵が存在すべきであり、さらには、行政処分に瑕疵があるとしても、取り消すべき公益上の必要と、取消によって当事者が負うこととなる既得権と信頼保護および法律生活安定の侵害等の不利益を比較・較量した後、公益上の必要が当事者が負う不利益を正当化するほど強い場合に限り、取り消すことができるものであり、瑕疵や取消をすべき必要性に関する証明責任は、既存利益と権利を侵害する処分を行った行政庁にあります(大法院2014年11月27日宣告2014ドゥ9226判決等参照)。そうであれば、補助金を受け取った当事者から誤って支給された部分について還收する処分を行うにあたっても、その補助金の受給に関して当事者において故意または重過失の責に帰するべき事由があるのか否か・補助金の額・補助金の支給日と還收処分日との間の時間的間隔・受給者の補助金消費の如何等に照らし合わせ、これを再び原状回復することが受給者に対して過酷なものであるか、誤って支給された補助金に該当する金額を徴収する処分を通じ、達成しようとする公益上の必要の具体的な内容と処分によって当事者が負うこととなる不利益の内容およびその程度等、様々な事情を考慮すべきものであり(大法院2014年10月27日宣告2012ドゥ17186判決等参照)、下級審においても、上記のような事情を考慮し、補助金還收処分の違法の有無を判断しています(釜山地方法院2016年9月22日宣告2016グハプ20693判決等参照)。

今回の運営実態調査の結果により、発電事業者等に対する補助金還收処分がなされる場合にも、個別の事例ごとに、具体的な事情を考慮し、補助金還收の要件およびその限界等について検討するのであれば、積極的な対応ができるものと思われます。

 

4.補助金の返還・還收処分に関連する2次制裁

なお、補助金法によると、不正な方法により補助金の交付をうけた、または補助金を他の用途で使用するなどの行為をした場合、補助金還收の対象となるだけでなく、補助事業の遂行対象において、5年以内範囲からの排除、補助金交付の制限、さらには、刑事処罰の対象になり得るため、注意する必要があります(補助金法第31条の2、補助金法第40条ないし第43条)。

上記のように、事業遂行の対象から一定期間除外されるのであれば、地方自治団体または事業者の事業運営に大きな打撃となるものと予想され、刑事処罰の場合、懲役刑賦課の可能性があるため、これに対する適切な対応も同時に行われる必要があります。このような場合、上述したとおり、補助金の支給を受けた手段が、補助金法所定の「不正な方法」に該当したと見ることができるのか、支給された補助金を実際にその支給目的とは異なる用途で使用したものと見ることができるのか等の争点につき、十分に争っていかなければなりません。

また、補助金還收処分そのものの効力だけでも、他の補助事業の参加対象から除外されるなどの不利益があるため、これによる不利益を避けるためには、補助金還收処分に対する不服(行政審判ないし行政訴訟)および暫定的救済策として執行停止の申請を行い、処分当事者が予想打にしない損害を被ることを防止する必要があると言えます。

 

5.結論

今回の運営実態調査は、約2,616億ウォン相当の電力産業基盤基金事業に関連する違法・不当な事例を摘発し、補助金受領者に対する巨額の支援金(補助金)還收処分を予告しているということから、利害関係者の綿密な検討および適正な対応が必要です。

法務法人(有限)世宗の公法紛争グループは、行政訴訟に対する経験と専門性に基づき、補助金分野に対する深みのあるアドバイス等をご提供しており、刑事グループおよびプロジェクトエネルギーグループとも有機的な協業を通じて、関連紛争に対する総合的なアドバイスを提供しています。上記の内容および補助金還收処分等につき、ご質問等がございましたら、下記の連絡先までご連絡ください。より詳細な内容について対応させて頂きます。

 

1 電気事業法第49条第1号に従い、電力産業基盤基金は、新・再生エネルギー支援事業にも用いられるところ『新エネルギーおよび再生エネルギー開発・利用・普及促進法』(以下「新再生可能エネルギー法」といいます。)および同法施行令、施行規則に基づく『新・再生エネルギー設備の支援等に関する規定』第42条は、電力産業基盤基金を活用して新・再生可能エネルギー事業に対するファイナンス支援事業を行えるように規定しています。今回の電力産業基盤基金事業運営実態調査においては、上記ファイナンス支援事業に関連する不正な貸付事例においても大きく問題となりました。

2 参考として、補助金を「虚偽の申請やその他の不正な方法により補助金等の交付をうけたり支給された者」は刑事処罰を行い(補助金法第40条第1号)、「補助金等を他の用途で使用した者」も刑事処罰を受け(補助金法第41条第1号)、個人以外の法人の場合にも、両罰規定として刑事処罰が下されることがあるため(補助金法第43条)、上記のような事由で個人または法人が刑事立件された場合には、積極的に争い「嫌疑なし」ないし「無罪」を主張してこそ、還收処分の対応においても有利であると言えます。