公正取引委員会(以下「公取委」といいます。)は、2022年9月28日に持株会社関連の制度運営の予測可能性を高めるための「持株会社関連規定に関する解釈指針」改正案(以下「改正案」といいます。)の行政予告を行いました。改正案は、公正取引法に新たに導入された持株会社のCVC(*) 保有の関連規定だけでなく、中間持株会社、共同出資法人、ベンチャー持株会社等の既存の規定に関しても、具体的な解釈指針を提示しています。公取委は、2022年10月21日までに利害関係人の意見を取り纏めた後、関連手続きを経て改正案を確定および施行する予定です。

(*) CVC(Corporate Venture Capital)は、一般的に会社法人が大株主の企業型ベンチャーキャピタルを意味するものとして、公正取引法上では『ベンチャー投資促進に関する法律』における「中小企業創業投資会社」および『与信専門金融業法』における「新技術事業金融業者」がこれに該当する。

弊社法務法人(有限)世宗は、今回の改正案の主な内容について紹介し、示唆点について検討してみました。その主な内容については、下記の表のとおりです。

区分 内容
一般持株会社CVC保有の関連規定
  • CVC所有主体を「中間持株会社ではない一般持株会社」と明示
  • CVC行為制限規定の適用時点の具体化
  • 持株会社の設立・転換の当時、CVCを所有している場合、設立・転換当時の行為制限規定に違背する一部類型の行為(CVC持分100%所有、負債比率、業務範囲)につき、2年の猶予期間の付与
  • CVC行為制限規定の適用基準(意味)の具体化
共同出資法人
  • 「持分変動が難しい法人」の意味に対する判断基準の提示
中間持株会社
  • 中間持株会社およびその(孫)子会社等に対する行為制限規定の重畳適用の明示
ベンチャー持株会社
  • ベンチャー持主株会社の設立・転換時点の明示

 

1.一般持株会社におけるCVC保有関連の規定解釈の提示

2021年12月30日から施行されている改正公正取引法は、一般持株会社が金融会社であるCVCを子会社として保有することを許容する例外規定を新設しました。これは、ベンチャー投資の活性化を促すため、金産分離の原則を一部緩和したものです。

一方、このような新設規定の解釈および執行に関連し、その意味において部分的に不明確であるという指摘が挙がっていたため、これを反映して改正案では、公正取引法上の持株会社のCVC保有関連規定(公正取引法第20条)の意味を下記のように、より一層具体的なものとして規定しています。

CVCの所有主体に関連し、改正案は、CVCを子会社として所有できる公正取引法第20条第1項の一般持株会社には、中間持株会社が含まれないということを明確にしました(改正案II.13.)。よって、中間持株会社は、CVCを子会社として所有することができないため、今後CVCを子会社として保有しようとする持株会社体制の会社らは、この点に留意しておく必要があります。

CVC行為制限規定の適用時点に関連し、改正案においては、その適用時点を(i)CVCを設立・登録する場合には、所轄法令に従って登録された日、(ii)CVCを買収する場合には、企業結合日、(iii)一般持株会社の設立・転換の際にCVCを所有していた場合には、持株会社の行為制限規定が適用される時点と同じ時点、(iv)既存子会社と合併してCVCが子会社となる場合には、合併登記日として区分し具体的に規定しました(改正案 II.14.)。

CVC行為制限規定の猶予期間に関連し、改正案は、一般持株会社の設立・転換当時に、すでにCVCを所有しており、その設立・転換時に既に公正取引法第20条第2項および第3項第1号ないし第3号のCVC持分の全部所有、負債比率(200%)、業務範囲(定められた範囲以外の金融・保険業の営為禁止)違反行為が存在する場合には、これに対し、2年の猶予期間を与えました(改正案 II.15.)。一方、当該猶予期間は、設立・転換当時に存在する上記のような類型の違反行為に限って適用され、新たな違反行為については適用されないということに注意する必要があります。

参考として、公正取引法には、一般持株会社の設立・転換当時、既にCVCを所有している場合に、上記のような猶予期間が与えられるのかに関し、直接規定している条項はありません。これにより、CVCを保有していた企業集団が持株会社体制へと転換することになる場合、上記のような行為制限規定を直ちに遵守すべきなのかについてが不明確でした。改正案では、このような場合に、2年の猶予期間が適用されるということを明らかにし、CVCを保有する会社が持株会社体制への転換を推進するにあたり、法的な安定性と予測可能性を高めるものと思料されます。

CVC行為制限規定の適用基準に関連し、改正案は、これをより具体的に提示しています(改正案 II.16.)。改正案は、公正取引法第20条第3項の「自らが所属する企業集団の所属会社」、同項第4号カ目の「出資金の総額」、同項第5号ラ目の「海外企業」、「総資産」、「総資産の100分の20を超える金額」、同号および第6号の「自らが業務を執行する投資組合」、同条第5項の「自らが運用中の全ての投資組合」の意味を明確なものにしました。

 

2.共同出資法人関連の持分変動が難しい法人判断の基準提示

公正取引法は、「経営に影響を及ぼし得る相当な持分を所有している2名以上の出資者が、契約またはこれに準ずる方法により、出資持分の譲渡を著しく制限しており、出資者間の持分変動が難しい法人」を「共同出資法人」として規定しながら(公正取引法第18条第1項第1号)、共同出資法人持分の所有については、持株会社と子会社の義務持分率を緩和(50% ⇒ 30%)しています(同条第2項第2号および第3項第1号)。

改正案は、公正取引法上の共同出資法人の要件の一つである「持分変動が難しい法人」の細部的な判断基準を提示しました(改正案 II.10.ナ.)。具体的に公取委は、これを類型別に例示し、(i)契約上、直接的に出資持分の譲渡を制限しているか否か、(ii)出資持分の譲渡手続きを制限しているか否か、(iii)契約上、出資持分の譲渡制限約定の違反時に、制裁手段があるのか否か等を個別的・総合的に考慮して持分変動が難しい法人であるかを判断するものとしています。

従前の規定では、「持分変動が難しい法人」の意味について明確な解釈の指針を定めておらず、事業者らが同要件の充足の如何を自ら判断することが容易ではありませんでした。今後、持株会社体制の事業者が合弁投資会社を設立するか、共同投資を進めるにあたり、取引構造の設計段階において、公取委が明示した細部的な要素を契約に反映することにより、共同出資法人として認められる可能性が高まるものと判断されます。

 

3.中間持株会社等の行為制限規定の重畳的適用の明示

一般持株会社が「中間持株会社」を子会社として有している場合、例えば、中間持株会社は(中間)持株会社でありながら一般持株会社の子会社でもあり、中間持株会社の子会社は、(中間)持株会社の子会社でありつつ一般持株会社の孫会社でもあるため、各々の持株会社および子会社に対する行為制限規定と子会社および孫会社に対する行為制限規定が重畳して適用されます。

ただし、公正取引法および従前の規定では、それに関する明示的な規定を定めておらず、このような行為制限規定の重畳的適用に関し、一部事業者が間違って理解している場合がありました。改正案においては、一般持株会社が中間持株会社を有している場合、中間持株会社、その子会社および孫会社については、一般持株会社の子会社、孫会社、曾孫会社としての行為制限規定も重畳して適用されるということを明確なものにしました(改正案 II.9.)。

 

4.ベンチャー持株会社の設立・転換時点の明示

改正案は、ベンチャー持株会社の設立・転換時点を公正取引法施行令第27条第3項各号の要件を全て満たした日として見なすものと規定しました(改正案 II.3.カ.(5))。これは、行為制限の規定および子会社持分特例の規定の適用時点を明確にするためのものとして、所有している全体子会社の株式価額合計額のうち、中小ベンチャー企業の株式価額合計額が占める割合が50%以上であること(設立・転換の議決日から2年間30%)、取締役会または株主総会を通じてベンチャー持株会社として設立・転換するものと議決したことなど、ベンチャー持株会社の要件を全て満たした日がベンチャー持株会社の設立・転換日になるものとしました。