公正取引委員会(以下「公取委」といいます。)は、『独占規制および公正取引に関する法律』(以下「公正取引法」といいます。)における不当な支援行為に関連し(公正取引法第45条第1項第9号)、その類型と審査基準について規定している「不当な支援行為の審査指針」(以下「現行審査指針」といいます。)を設け、その運営にあたっています。
現行審査指針においては、資金支援に関連し、安全地帯*規定を定めているものの、その基準となる支援金額を事前に予測し難いという問題とともに、資金支援を除く他の類型の支援行為については、安全地帯の規定を定めていないという問題が提起されてきました。これにつき、公取委は、2022年10月17日付で、現行審査指針上(i)安全地帯基準の予測可能性を改善して適用範囲を拡大する一方、(ii)支援行為の類型型の安全地帯規定を新設する内容の改正案(以下「改正案」といいます。)を行政予告しました。
* 取引規模等が微々たる水準である場合、市場競争に及ぼす影響が少ないものと見做し、公取委が原則として審査を開始しないために設定した一応の基準
公取委は、2022年11月7日までに利害関係人の意見を取り纏めた後、関連手続きを経て年内に改正案の確定および施行をする予定です。安全地帯規定の主な改正内容については、下記のとおりです。
類型 | 改正前 | 改正後 |
資金取引 |
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資産取引 | <新設> |
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賃貸借取引 |
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商品・サービス取引 |
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人材提供 |
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不当性 |
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<削除> |
1.資金取引関連の安全地帯基準の改正
現行審査指針は、正常金利との差および支援金額を考慮して資金取引に関する安全地帯の該当の如何について判断するものと規定しています。しかしながら、「支援金額」とは、支援主体が支援客体に対して提供する経済的給付の正常価格より、それについての対価として支援客体から受け取る経済的な反対給付の正常価格を差し引いた金額を意味するところ(現行審査指針および改正案II.6.)、資金取引の場合、企業らが事前に正常金利、支援性取引規模等を算定するのが難しいという問題が提起されてきました。
これにつき、改正案は、資金取引の安全地帯の適用基準を現行審査指針の支援金額の代わりに、当該年度の資金取引総額基準として指針を改正しました。資金取引総額の基準は、当該年度の支援主体と支援客体との間に行われた全ての資金取引規模を合算して算定されるため、企業においては、不当支援安全地帯の該当の如何につき、比較的容易に予測することができるというメリットがあります。
さらに、公取委は、改正案を通じ、現行審査指針上の安全地帯の適用基準を「支援金額1億ウォン」から「資金取引総額30億ウォン」へと上方修正し、安全地帯の適用範囲を拡大しました。
2.その他の類型の安全地帯基準の新設
現行審査指針においては、資金取引を除く他の類型の支援行為の場合、安全地帯規定を定めておらず、行為の各類型間における衡平性が欠けているだけでなく、安全地帯規定の活用度および企業の予測可能性が阻害されるという指摘が挙がっていました。
これにつき、改正案は、資金取引の他にも、資産、賃貸借、商品・サービスの取引および人材提供類型の支援行為についても、安全地帯の基準を新設し、不当な支援行為の行為類型別に安全地帯に関する規定を整備しました。
特に、改正案は、相当な規模による支援行為に関連して別途の安全地帯基準(当該年度の取引総額が100億ウォン未満であり、かつ、取引相手方の平均売上高の12%未満)を新設したところ、不当支援行為に該当する相当な規模の取引に該当するか否かについて判断するにあたり、企業に対して一定の基準を提供できるものと予想されます。
3.不当性判断における安全地帯基準の削除
現行審査指針では「個別の支援行為または一連の支援行為による支援金額が5千万ウォン以下として、公正取引阻害性が高くないと判断される場合」を不当性が認められない安全地帯として規定しています(現行審査指針IV.3.ラ.)。これについては、現行審査指針には既に、より緩和された安全地帯の基準(支援行為1億ウォン以下)が存在するため、不当性の判断に関連する安全地帯基準の活用度が低く、指針体系からみても、重複するとの指摘がありました。
改正案は、支援行為の類型別に、安全地帯の規定を修正または新設する一方、不当性の判断の安全地帯基準を削除し、行為類型別に分類することにより基準を一元化するよう規定の整備を行いました。
4.示唆点
今後、公取委の改正案が確定・施行されると、従前の資金支援にかかる安全地帯の適用範囲が拡大され、資金支援以外の行為類型についても安全地帯の規定が新設され、企業における不当支援行為の該当の如何に関連する予測可能性に役立つものと期待されます。ただし、相当な規模による支援行為を除くと、依然、正常金利(価格、賃貸料等)の算定に困難があり、支援主体が何らの反対給付もなく支援する場合(例えば、人材支援の場合、支援主体が派遣人材の人件費を全て負担する場合が大半である。)には、正常価格との差を検討する必要もなく安全地帯規定の適用ができないため、実際、改正案による安全地帯規定の適用には限界があるものと予想されます。