公正取引委員会・中小ベンチャー企業部(以下「中企部」といいます。)・調達庁は、2023年1月2日付で『独占規制および公正取引に関する法律違反行為等の告発要請および告発に関する業務協約』(以下「業務協約」といいます。)を改正し、その主な内容については、次のとおりです。

 

1.義務告発要請制とは

公正取引法違反行為については、公取委の告発があってこそ公訴提起をすることができます(公正取引法第129条第1項、専属告発権)。これに関連し、公取委が専属告発権を消極的に行使し、調査対象の企業に対して免罪符を与えているという批判が出ており、これを補完するため、2013年に義務告発要請制が導入されました。

義務告発要請制は、公取委が告発要件に該当しないと決定した事件について監査院長、中企部長官、調達庁長が社会的なシナジー効果、国家財政に及ぼす影響、中小企業に及ぼした被害の程度等の異なる事情を理由として公取委に告発を要請すると、公取委が義務的に告発しなければならない制度です(公正取引法第129条第4項)。公取委と中企部、調達庁は、義務告発要請制のスムーズな運営に向け、2013年に業務協約を締結しました。


2.業務協約改正前の問題点

しかしながら、義務告発要請制度を運営する過程において、次のような問題点が生じています。

(法的安定性の侵害)当初の業務協約によると、義務告発要請機関らは、特段の事情がない限り、6ヶ月以内に告発要請するかについて検討し決定を下さなければならないものの、実際には、6ヶ月の期間中には、何らの措置も取られず、その期間が相当経過した後に、突然当該企業に対して資料提供の要請を行ったり、公取委に告発要請をしたりするなど、企業においては、長期間法的地位が不安定な状態に置かれるケースが存在した。

(企業らの資料提出の負担)公取委が告発要請の関連資料として、義務告発要請機関らに対して議決書のみを提供することにより、これらが当該企業に対して、義務告発要請の判断に向けて必要な疎明資料を追加提出するように求めることにより、企業における負担が増大する。

(告発範囲の過剰な拡大)中企部が中小企業に及ぼす被害の程度等を考慮して告発要請を行えるようにした趣旨は、中小企業に対する「パワハラ」を規定するためであるが、運用過程において不当支援行為、私益騙取行為等の場合についても、間接的に中小企業に被害が生じる等の理由で、告発を要請することにより告発対象が過剰に拡大される。


3.業務協約改正により変更となった点

ア.告発要請期限の短縮

義務告発要請機関らの告発要請期限を4ヶ月へと短縮しただけでなく、特段の事情により、これを超える場合には、その事由および予想時点等を事業者に対して通知するものとしました。

これにより、告発要請期間そのものが短縮され、追加の検討期間が必要な場合には、予め事業者に対し通知するようにすることで、企業における法的不安定が解消され、予測可能性も高まるものと期待されます。

イ.資料提出の負担緩和

今回の改定を通じて議決書だけでなく、(i)事業者における公正取引法等の法違反の履歴、(ii)公取委の審査報告書の証拠目録、(iii)被害企業の一般現況、(iv)カルテル事件の自主申告者の情報(ただし、自主申告者の同意書)等も義務告発要請機関らに対して提供され、さらに、これらが公取委の未告発事由等を含め、公取委に対して告発要請の根拠となる事実関係の確認を要請することができる手続きも設けました。

これにより、企業が、公取委調査以降、再び義務要請告発機関らに対して膨大な資料提出をしなければならないプレッシャーが一定部分緩和されるものと思われます。

ウ.不当支援行為または私益騙取行為に対する告発要請の制限

また、中企部における告発するか否かの検討および要請が中小企業の被害と直接の関連性がある事件により集中できるよう、公正取引法上の不当支援行為および私益騙取禁止の事件は、中企部の要請がある場合に限り、事件結果を通知するものへと変更されました。

これにより、従前に比べ、中小企業の関連性が低い不当支援行為または私益騙取行為に対する告発要請が制限されるものと思われます。

最近、義務告発要請制の運営に関連し、関連制度の整備がなされず企業らに対して過剰な負担になり得るという指摘が出ている状況において、今回の業務協約改正により、義務告発要請手続きがより一層効率的に運営されるものと期待されます。

 

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