国内外の機関投資家らは、多数の株主総会案件を直接分析するのが困難なため、議決権諮問会社に対して助言等を依頼するケースが増えています。特に、主要の国際的議決権諮問会社であるISS(Institutional Shareholder Service)とGlass Lewisは、全世界における議決権諮問市場シェアの90%以上を占めており、毎年主要国家に対する議決権の行使指針を改正・公開しています。

ISSとGlass Lewisは、2022年12月に、韓国の企業における2023年度株主総会に関する議決権行使指針の改正を行っており、その主な改正事項については、下記のとおりになります。

 

1.ISS議決権行使指針の主な改正事項

(1)取締役の選任

気候関連の責任の追加(新設):温室効果ガスの直接排出量が重要な企業1の場合、気候変動に関連する企業におけるリスクおよび経済全般のリスクを理解し、評価、緩和するにあたり必要な最低限の措置をとらないことについて責任のある取締役の再選任に反対します。気候変動にかかるリスクを理解し緩和するために必要な最低限の措置は、会社の政策と一貫していなければならず、その内容については次のとおりです。

  • TCFD(Task Force on Climate Related Financial Disclosures) フレームワークに基づく気候関連の主な内容の細部公示:気候変動に関連する取締役会のガバナンス、会社の戦略、リスクの分析および管理、測定指標と目標。
  • 適切な温室効果ガス削減目標の設定:温室効果ガス削減目標は、中期目標または2050年の炭素中立目標のことを言い、運営における排出量(スコープ1)と電気使用量(スコープ2)の削減目標に該当する。削減目標の範囲は、会社と直接関連のある温室効果ガス排出量を大部分管理する必要がある。


(2)社会および環境イシューに対する株主提案(一般的なアクセス)

長短期の株主価値に及ぼす影響を事案別に判断し、追加として次のような事項を考慮します。

  • 株主提案を通じて解決を図るイシューが立法または規制により適切または効果的に処理できるか否か
  • 株主提案が範囲、期間またはコスト等と照らし、会社に過度な負担となっていたり、株主価値よりも特定の目的を過剰に強調したりしているか否か
  • 産業におけるスタンダードな慣行に基づき判断する際、株主提案が背景となるイシューを解決するための会社のアクセス方法
  • 提案の背景となるイシューにかかる会社の慣行に対して重大な論争、罰金、制裁または訴訟が存在するか否か(新設)
  • 現在合理的かつ十分な情報が株主に提供されているにもかかわらず、株主提案が会社の公示事項を増加させたり、より高い透明性が求められたりするか否か
  • 会社が競争において不利になり得る情報を公開するよう要求する場合

 

2.Glass Lewisによる議決権行使指針の主な改正事項

(1)取締役会の性別多様性に関して

Glass Lewisは、2022年の議決権行使指針において、女性取締役の選任に関連する議決権行使指針(『資本市場と金融投資業に関する法律』第165条の20の内容と同じ。)を制定し、国内の取締役会における性別多様性が不足している点に関する現況を提示したものの、指針と同様の内容が法令として効力が生じ、指針が引き続き適用されることにより、現況の提示は、専門の規制アップデートに関する説明をご参考願います2

(2)取締役の選任

職務の忠実な遂行に関して(下線が新設された部分)

Glass Lewisは、社内取締役として在職しながら、2以上の上場企業の取締役、監査役(委員)、執行役員等(以下「取締役等」といいます。)を兼任する候補者と、5以上の上場企業の取締役会構成メンバーを兼任する候補者に関する取締役選任案件につき、反対の議決権行使をするよう勧告しています。

商法第542条の8および同法施行令34条により、上場企業の社外取締役は、当該上場企業の外、2以上の別会社の取締役・執行役員・監査役として在任することができません。Glass Lewisは、社外取締役の選任に関し、国内の上場企業の取締役等の兼任に関しては、上記商法規定を準用しています。なお、商法上異なる会社につき、海外の会社を含むのか否かについて明確な判断が難しいものの、投資家らが取締役候補者の独立性とともに性別、能力、性向および経験の多様性を備えていることを要求しているという点を考慮し、海外会社を含めて5つの上場企業の取締役等を兼任する場合については、取締役選任案件に賛成するということを説明しました。ただし、Glass Lewisのグローバル政策により、アジア市場以外の上場企業の取締役等の兼任のケースでは、これを2会社の兼任と同様に計算します。

Glass Lewisは、社内取締役に限った兼職については、反対していません。

過度な兼任が取締役会業務に十分な時間を割くことを制限するかについては、取締役候補が兼任している会社の規模や位置、取締役会における職務、取締役が規模の大きい非上場企業を兼任しているか否か、任期、兼任している全ての会社における取締役会出席率等を通じて考慮することができます。

また、会社が当該取締役候補者の選任に関する十分な根拠を提供する場合、Glass Lewisは、その取締役候補者に関する反対の勧告を自制しています。会社の提供する選任根拠は、会社の属する産業、会社の戦略、主要市場に対する取締役候補者の知識、技術、観点および背景の多様性を含め、株主による取締役候補者の会社に対する貢献度の評価ができるようにしなければなりません。

Glass Lewisは、同じ企業集団に属する複数の会社らの取締役職を兼任する場合、これを1会社の取締役としての在職と同じであると見做しています。よって、同じ企業集団に属する会社における取締役職兼任については、反対の議決権行使を勧告していません。また、投資ポートフォリオを管理することが唯一の目的である会社を代表する取締役の兼任については、反対していません。

 

今回のニュースレターでご案内した海外における主要議決権諮問会社の動向は、特に外国人投資家が高い持分を保有している会社では、綿密に検討する必要があるといえます。また、海外議決権諮問会社の議決権行使指針の改正は、国内のスチュワードシップコード加入機関の議決権行使指針改正にあたり、ベンチマーキングになり得るため注意しなければなりません。特に株主総会案件に関し、反対の議決権行使がある場合には、これはESG評価において高い割合を占める企業支配構造の評価にて、否定的な要因となり得ます。

国内外の機関投資家の上場企業に対する影響力は日増しに高まっており、特に最近では、ESGに関連する株主アクションが増加しています。弊社法務法人(有限)世宗は、国民年金等の国内における主要投資家と海外機関投資家、株主アクション主義の投資家および市民団体等の企業を巡る主要の利害関係人における意思決定メカニズムと、国内外の規制およびガイドラインを分析し、企業が株主アクションに対して戦略的に対応できるよう株主総会の案件諮問から議決権関連の諮問に至るまで、総合的なリーガルサポートを提供しております。

 

上記の内容につき、ご質問等がございましたら、下記の連絡先までご連絡ください。より詳細な内容について対応させて頂きます。

1クライメート・アクション100+(Climate Action 100+)の重点管理企業として、国内では韓国電力、ポスコホールディングス、SKイノベーションが該当します。
2関連の細部事項は、次のニュースレターを参考にしてください。 取締役会における性別多様性に係る規制の動向とその展望 (shinkim.com)