1.電力市場運営規則の改正施行
最近、ロシア-ウクライナ戦争の影響でLNG等の燃料コストが急騰するに伴い、電力卸売価格が2021年の年平均94.34ウォンから2022年12月には267.63ウォンへと高騰しています。このような電力取引価格の急騰による国民生活または国民経済が抱える不安定性を解消するため、政府は、2022年11月の電力取引価格の上限に関する告示を改正し、直前の3ヶ月間の平均系統限界価格(以下「SMP」といいます。)が、ここ10年間の平均SMPの上位10%を記録する場合、緊急に電力卸売価格の上限を定める緊急精算上限価格制(以下「SMP上限制」といいます。)を導入しました。また、このようなSMP上限制の導入に伴う後続の補完立法として、2022年12月に二回に亘り、電力市場運営規則の改正がなされました(各々の施行日2022年12月1日および2022年12月28日)。以下では、電力市場運営規則の具体的な改正内容について、検討させて頂きます。
2.改正電力市場運営規則の主な内容およびその示唆点
ア.電力市場の緊急精算上限価格導入による規則改正
SMP上限制が導入されたとしても、発電事業者らに対して発電原価にも達しない緊急精算上限価格をもって発電を強要することは、憲法上の市場経済原則や基本権の制限に関する比例原則に違反する余地があるため、投入された燃料コストが緊急精算上限価格を超える限界発電機等を中心に、SMP上限制の導入に関連する損失補填について議論がなされており、これを反映して改正電力市場運営規則は、SMP上限制の導入による発電事業者の損失を補填する規定の導入を行いました。
具体的には、①中央給電発電機の場合、発電機の発電価格が緊急精算上限価格を超える場合には、緊急精算上限価格ではなく、当該発電機の発電価格を適用して精算し(電力市場運営規則第2.4.4条の2第3項および別表2)、②新再生(可能)エネルギー発電機のような非中央給電発電機(中央給電の区域電気発電機を含みます。)の場合、緊急精算上限価格の適用期間中に支払われた電力量精算金が電力精算のための燃料コストに達しない場合には、専門委員会における適正性の検討を経て、その未充足の額を補填することができるものとしています(電力市場運営規則第2.4.4条の2第4項ないし第6項および別表2)。
しかしながら、非中央給電発電機に該当する太陽光発電設備の場合、発電設備の設置後には、追加の燃料コストの支出がないため、電力市場運営規則第2.4.4条の2第4項に基づく燃料コストに達していない相当額につき、金銭的補填は難しいという問題提起が出ており、これに対して太陽光業界では、今回の改正案が民間発電事業者における営業の自由と財産権を侵害するため違法であると主張し、SMP上限制施行に関連する仮処分申請および行政訴訟の提起に向け準備を進めているものと見られます。
イ.固定価格契約の電力取引価格精算上限基準新設による規則改正
再生(可能)エネルギー発電設備について締結されたSMP+REC固定価格契約(選定契約)に関連し、新再生(可能)エネルギー発電事業者は、SMPが固定価格よりも低い場合、REC精算金を通じて固定価格に達する収益を得、SMPが固定価格に比べ高い場合には、SMPの一切を収益として得ることになるため、SMPが上昇する状況では、再生(可能)エネルギー発電事業者に対して過度な利益発生が起きるという指摘がありました。これにつき、電力市場運営規則の改正により、固定価格契約についても精算上限価格および緊急精算上限価格を適用するものとしました。
具体的に、①固定価格契約を締結した発電機は、当該取引時間のSMPが固定価格の1000分の1(kWh単位で換算した価格を意味し、以下「kWh基準固定価格」といいます。)を超える場合、そのkWh基準固定価格を固定価格契約の精算上限価格とするものの、②緊急精算上限価格が適用される場合には、固定価格契約のkWh基準固定価格と緊急精算上限価格のうち、いずれか低い額を固定価格契約の精算上限価格とします(電力市場運営規則第2.4.4条の3第1項および別表2)。このとき、固定価格契約を締結した発電機の場合にも、電力市場運営規則第2.4.4条の2第4項に基づき、専門委員会の適正性の検討を経て燃料コストに達していない額を補填することができます(電力市場運営規則第2.4.4条の3第4項)。上記電力市場運営規則第2.4.4条の3は、固定価格契約関連の電力取引価格上限に関する告示の施行日である2023年4月1日以降に固定価格契約を締結する契約について適用されます(電力市場運営規則附則(2022年12月27日)第2条第1項、電力取引価格上限に関する告示(2022年12月26日)附則、ただし、2023年上半期競争入札公告選定分および2023年上半期韓国型FITに2023年3月31日まで参加申請した場合は例外である。)。
上記改正を通じて固定価格契約を締結した再生(可能)エネルギー発電機についても、精算上限価格および緊急精算上限価格を適用できる根拠規定が設けられたことにより、今後SMPが燃料コストの上昇等の要因によって大幅に上がったとしても、固定価格よりも高く電力を販売することができなくなり、固定価格契約を締結した再生(可能)エネルギー事業者における収益性に影響を与えるものと思われます。ただし、同規則施行日以前に固定価格契約を締結済みの事業者については、上記規定が適用されません。
ウ.直接電力取引の発電機の緊急精算上限価格適用に向けた精算基準の改正
直接電力取引契約を締結している直接電力取引発電機は、電力市場に電気供給をしないことが原則となっているものの、例外として、①時間帯別の供給量を超える超過発電量が生じた場合、および②当事者間における合意により、発電量の一部は直接電力取引のために供給し、残りは電力市場において取引するものと定める場合には、当該電力を電力市場で取引することができます(再生エネルギー電気供給事業者の直接電力取引等に関する告示第5条第5項、第7条)。
改正電力市場運営規則は、直接電力取引発電機が上記の2つの例外規定により、電力市場に電力を供給する場合においても、緊急精算上限価格が適用されるものとなっており、これによると、使用前検査の検査済証基準の設備容量100kW以上である直接電力取引発電機が、電力市場に供給した電力量は、SMPと緊急精算上限価格のうちのいずれか低い額をもって精算されます(電力市場運営規則別表2のI.1.キ)。
今回の改正によって直接PPAを締結している再生(可能)エネルギー発電事業者の超過発電量についても、緊急精算上限価格が適用されることにより、直接PPAに参加する再生(可能)エネルギー発電事業者の電力取引の収益に影響が出てくるものと言えます。この場合、再生(可能)エネルギー発電事業者は、超過発電量に関連するRECの現物市場販売収益等により収益性の補填策等を講じるべきであるものと思料されます。
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