1.重大災害処罰法1号判決において請負人A社代表取締役Bに対する懲役刑(執行猶予)の宣告

重大災害処罰法の施行後、法院において請負人(元請業者)の代表取締役(CEO)を処罰する初の判決が言い渡されました。議政府地方法院高陽支院では2023年4月6日に、重大災害処罰法違反(産業災害致死)罪および産業安全保健法違反罪により起訴されたA社(請負人)に対して罰金3,000万ウォン、重大災害処罰法違反(産業災害致死)罪によって起訴されたA社の代表取締役Bに対して懲役1年6ヶ月、執行猶予3年を各々宣告しました(双方からの控訴がなく確定となりました。)。

法院は、本件において請負人A社の代表取締役Bに対し、①事業所の特性による有害・危険の要因を確認・改善する業務手続きを設けておらず、安全保健管理責任者等が当該業務を忠実に遂行しているか否かを評価する基準づくりもなされておらず、安全管理責任者等が重量物の作業に関連して墜落、落下の危険につき適切に評価し、事故を防止するための作業計画の樹立も出来ないようにしており、それにより墜落防止用器具の安全帯の支給および付着設備の設置が出来ないようにした点、②重大産業災害の発生に備えたマニュアルづくりをしておらず、工事現場で重量物を引き上げるにあたり安全柵を解体して作業が行わるにもかかわらず、安全帯が支給されなかっただけでなく、安全帯を連結する付着設備が一切設置されておらず、いつでも墜落による重大産業災害が発生し得る危機迫った状況であったにもかかわらず、安全保健管理責任者等をもって作業を中止させたり、直ちにその墜落の危険を取り除くように出来なかった点等を理由に、災害予防に必要な安全保健管理システムの構築およびその履行に関する措置を取らずに従事者が死亡するという重大産業災害に至ったものと判断しました。

*産業災害:日本での「労働災害」に当たる。

 

2.今回の宣告の示唆点

今回の宣告は、重大災害処罰法が2022年1月27日に施行されてから初の判決として、重大災害処罰法違反罪に対する判断基準と処罰の程度を確認することができる初の判決になると見られ、注目を浴びていました。

今回の事件において法院は、請負人Aが実質的な支配・運営・管理する事業または事業所において、第三者に対して請負等を行った場合、その第三者の従事者の安全・保健上、有害または危険を防止するため、A社の代表取締役Bに対して安全保健管理システムの構築およびその履行に関する措置を取るべき義務があると判断し(重大災害処罰法施行令第4条第9号)、これを前提として、①事業または事業所の特性に基づく有害・危険の要因を確認・改善する業務手続きを設けていない点(重大災害処罰法施行令第4条第3号)、②安全保健管理責任者等が当該業務を忠実に行っているか評価する基準づくりをしていない点(同法施行令第4条第5号)、③事業または事業所に重大産業災害が発生、または発生する危機迫るリスクがある場合に備え、作業の中止、危険要因の取り除き等の対応措置に関するマニュアルを作成していない点などが事故発生との直接の因果関係があると判断したものと思われます。上記のような重大災害処罰法違反罪に対する判断基準は、重大災害処罰法の施行以降に発生した他の事件らの場合にも同様に適用されるものと思料されます。

また、今回の判決においては、請負人A社の代表取締役Bは、重大災害処罰法違反罪により懲役1年6ヶ月、執行猶予3年を、請負人および受給者の現場所長であるCとFに対しては、各々業務上過失致死罪および産業安全保健法違反(想像的競合)罪として懲役8ヶ月、執行猶予2年を、請負人Aは、重大災害処罰法違反罪および産業安全保健法違反(想像的競合)罪により罰金3,000万ウォンを、受給者E社に対しては、産業安全保健法違反罪により罰金1,000ウォンを各々言い渡しました。 

法院は、このような宣告刑を決定しながら、事業主および請負人に対して重い責任を問うべきであるという社会的合意に基づき、重大災害処罰法が制定されたにもかかわらず、被告人らが業務上の義務を履行しなかった点と、一部でも履行していたのであれば、事故が発生しなかっただろう可能性が高いものと見られる点を不利な量刑因子として判断しながらも、被害者をはじめとする建設労働者間において、安全柵の任意的撤去等の慣行が蔓延している状況で、このような点が事故の原因となったものと見られることと、遺族らとの合意がなされた点、被告人A社が重大災害処罰法にて定める安全保健管理システムの構築のための具体的な計画を明らかにしている点等を有利な量刑因子として判断しました。このような処罰の程度と量刑因子についても、今後類似の重大災害処罰法違反事件における結果の予測にあたり、一つの判断基準になり得るものと思われます。

 

3.重大災害処罰法の適用対象拡大の予定

なお、今回の事件の場合、受給者E社(建設工事請負額6億ウォン相当)は、重大災害処罰法の適用を受けないものとなりましたが、これは重大災害処罰法が常時勤労者50人未満の事業所(建設業の場合には、工事金額50億ウォン未満の工事)については、適用を猶予しているためです。しかしながら、来年からは「常時勤労者5人以上50人未満の企業」と「工事金額50億ウォン未満の建設工事」についても重大災害処罰法の適用対象となるため、このような点に、より一層の注意を払う必要があると言えます。

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