政府は、2024年7月24日「シニアレジデンス活性化方案」(以下「活性化案」といいます。)を発表したことに続き、同年8月28日に関係部署合同による「庶民・中産階級・未来世代の住居安定のための新たな賃貸住宅供給方案」(以下「供給案」といいます。)、8月29日付で国土交通部が「第3次長期住居総合計画」(以下「総合計画」といいます。)を発表するなか、シニアレジデンスに関する内容を盛り込みました。政府は今年下半期よりシニアレジデンスに関連する本格的な法令の制定・改正を予告しています。
活性化案においては、シルバータウン(老人福祉住宅)、シルバーステイ(民間賃貸住宅)、高齢者福祉住宅(公共賃貸住宅)等の高齢層のための諸般のサービス(家事・健康・余暇等)の提供がなされる高齢層を考慮した住居スペースを「シニアレジデンス」と命名し、民間事業者によるシニアレジデンス供給の拡大に向けた設立・運営および敷地・資金等の供給段階の全般に亘る規制緩和案をその骨子としています。
なお、総合計画では、シニアタウンの建設/買取の後、賃貸運営等を通じて収益を得る「シニアREITs」を通じた高齢者福祉施設の供給における規制特例および資金支援等、投資促進の方案づくりを行っており、供給案においては「ヘルスケアREITs」を活用したシルバーステイの供給拡大案を具体的なものとしています。
以下ではシニアレジデンスの主な類型であるシルバータウン(老人福祉住宅)を中心に、政府の発表する活性化案の主な内容とその示唆点についてご紹介させて頂きます。
1.シルバータウン(老人福祉住宅)に関する規制の緩和
1)設立・運営関連規制の緩和
- 土地・建物の所有権ではない使用権によりシルバータウンの設立・運営を許容
- サービス専門事業者の育成に向けた支援の根拠および事業者の要件(資本金要件等)の設定
2)REITs等の参入における規制の緩和
- プロジェクトREITsおよびヘルスケアREITの導入を通じたシニアレジデンス開発の促進
- REITs等のシルバータウン設置時から委託運営会社に運営の委託ができるように改善
- REITs等のシルバータウン運営委託時における委託運営会社のシルバータウン事業運営経験の要件を廃止
- REITsがシルバータウンを設置・信託して運営する場合地方税減免を適用する予定
3)新分譲型シルバータウンの導入
- 賃貸型が一定の割合を占める新分譲型シルバータウンを人口減少地域(89箇所)に導入
- 分譲型シルバータウンに対する地域活性化投資ファンドの投資許容
4)入居への負担緩和
- 入居保証金貸付の際の住宅金融公社からの保証支援の拡大を検討
- 既存の所有住宅を活用した住宅年金の継続受領および賃貸の許容
5)療養サービスへの連携緩和
- 療養サービスが必要な場合にも引き続き居住できるよう居住の維持基準づくり
- シルバータウンと療養施設をともに建設する際の人員配置基準および施設基準等の許認可基準の緩和
- 療養サービスが必要な高齢層を対象に特化型サービスを提供する生活補助住居型のシルバータウンの許容(シルバータウン入居対象から独立生活可能の要件を廃止する)
2.民間・公共賃貸住宅型に関する関連規制の緩和
1)シルバーステイ(民間賃貸住宅)
- 公共宅地内の民間賃貸用地の一部を医療・福祉施設等の隣接地域に配置して供給する
- 建設資金につき、住宅都市基金の公共支援及び民間賃貸融資の支援を検討する
- 高齢者需要が少ない住民共同施設の設置緩和の検討
- 住宅所有高齢者も入居できるよう入居対象の拡大
2)高齢者福祉住宅(公共賃貸住宅)
- 建設賃貸(非首都圏)、老後賃貸リフォーム(首都圏都心)、買取賃貸を通じた供給の拡大
- 中産階級高齢世帯の入居機会の拡大に向けた推薦制等の方案づくり
3.シニアレジデンス共通支援策
1)敷地確保へのサポート
- 遊休基盤施設の敷地活用に向けた都市・郡計画施設立体複合区域の導入(容積率・建ぺい率および用途制限の緩和)1
- 都心遊休施設(大学施設、廃校、宿泊施設、オフィステル等)の転換・活用の誘導
- 遊休国·共有地(軍部隊の移転敷地、老朽した公共庁舎等)の発掘・提供の推進
2)投資リスクおよび入居負担の緩和
- シニアレジデンス建設資金等に対する住宅金融公社の貸付保証の支援検討
- 長期の賃貸期間および契約の自動更新等を含む賃貸契約指針(標準契約書)づくり
- SH等の地方住宅公社を通じた年金型買取賃貸の拡大改善
4.示唆点
「シニアレジデンス活性化方案」と供給案および総合計画等は、多様な形態のシニアレジデンスのうち、特にシルバータウン(老人福祉住宅)およびシルバーステイ(民間賃貸住宅)等の供給・設立・運営等の全ての段階において開発事業者、運営法人、入居者等に対する多方面での支援策を盛り込んでおり、シニアタウンの建設/買取後における賃貸運営等を通じて収益を得る「シニアREITs」およびシルバーステイと医療・商業複合施設を同時に開発する「ヘルスケアREITs」を通じて投資促進を図る案を具体的なものとし、今後REITsを通じたシニアレジデンスの供給が拡大していくものと思われます。
シニアレジデンス活性化方案に基づき今後老人福祉法が改正され、土地・建物の使用権確保だけでシルバータウン(老人福祉住宅)を設立・運営することができるようになり、設立時から委託運営会社の職員における運営人員の配置が可能になるよう規制緩和がなされれば、常勤役職員が確保できずに人員要件の充足が難しかった投資機構(REITs・ファンド等)におけるシルバータウン(老人福祉住宅)事業への参加も期待できるものと思料されます。
ただし、導入予告がなされている新分譲型老人福祉住宅の場合、分譲型が許容される人口減少地域(89箇所)が首都圏郊外の一部と地方に限定されるため、首都圏における供給の効果は限定的であるものと思われます。
さらに、シルバータウン(老人福祉住宅)の入居基準を改正することにより、入居対象者が「独立した生活ができる」60歳以上から療養サービスを必要とする高齢層まで拡大されると、老人療養施設の中間段階の療養サービス提供が可能な生活補助住居型シルバータウン事業も行えるようになると見られます。
政府は、2024年下半期および2025年上半期中に、関係部署のタスクフォースを通じて『シニアレジデンス活性化のための特別法』の制定および関連法令の改正を推進すると予告しているため、今後関連法令の制定・改正の推移を見守っていく必要があります。
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1 2024年8月7日改正・施行された『国土の計画および利用に関する法律』および同施行令において都市・郡計画施設立体複合区域が導入されました(200%範囲内の容積率・建ぺい率の緩和)。