韓国取引所は、2025年2月11日にバリューアップ優秀企業選定基準(案)を発表しました。当該基準により今年5月にバリューアップ優秀企業の表彰実施が行われる予定です。韓国取引所は、表彰企業に多様なインセンティブを与え、上場企業におけるバリューアップ・プログラムへの参加を促し、バリューアップ企業文化の拡散を図るという方針を設けています。今回のニュースレターでは、バリューアップ優秀企業選定評価プロセスについて詳しく検討してみたいと思います。
1. 1次定量評価:企業価値向上結果の評価
バリューアップ優秀企業は、合わせて3段階の評価システム(1次定量評価、2次定性評価、3次総合評価)を経て選定される予定となっています。評価対象となる企業は、有価証券およびKOSDAQ市場上場企業で、バリューアップ計画開示が開始された2024年5月から今年3月の間にバリューアップ計画の開示を行った企業です。ただし、新規上場銘柄、種類株式、投資会社、スペック(企業引受目的会社)、最近3年間におけるバリューアップ優秀表彰履歴のある企業は、評価対象から除外されます。
1次定量評価においては、開示企業のバリューアップ結果を重点的に評価します。企業バリューアップの結果を示すTSR(株主総利回り)、PBR(株価純資産倍率)、ROE(自己資本利益率)を評価項目に盛り込みます。また、韓国ESG基準院の支配構造等級がC等級以下の企業は、脱落処理となります。
<1次定量評価の評価項目>
項目 | 内容 |
---|---|
TSR | TSR数値の反映 |
PBR | PBR数値と前年比の増分を反映 |
ROE | ROE数値と前年比の増分を反映 |
支配構造等級 | C等級、D等級(韓国ESG基準院)は不合格処理 |
TSR(株主総利回り)は、企業の株主の立場において株式投資を通じた効果を直感的に表示する指標として、評価対象期間末のTSR数値を評価します。PBR(株価純資産倍率 )は、韓国証券市場の低評価が最も反映されている指標として、評価対象期間末のPBR数値と前年比の増分とを評価します。ROE(自己資本利益率)は、株主資本の収益性と活用度を表す指標として、評価対象期間末のROE数値と前年比の増分とを評価する内容となっています。韓国ESG基準院の支配構造等級は7段階に区分されており、そのうちの最下位に当たる2等級(C等級・D等級)と評価された場合には、優秀企業の選定から外されます。
2. 2次定性評価:開示の充実性および企業価値向上努力の評価
2次定性評価には、公正性の確保に向けて多数の外部金融投資業界専門家が外部評価人材として参加します。その構成としては、証券会社、資産運用会社、海外機関投資家となる予定です。
2次評価は、バリューアップ計画の開示の忠実性評価とバリューアップ努力に対する質的評価の目的を持っています。開示忠実性の評価は、バリューアップ計画ガイドラインの勧告事項および記載事項の忠実な反映の有無について評価するものですが、理事会(取締役会)の参加、英文での開示・周期的な開示、ガイドライン体系の忠実性が評価項目となります。バリューアップ努力評価は、株主還元および投資努力、バリューアップ計画に対する市場評価、模範的な支配構造の構築が評価項目となります。
<2次定性評価の評価項目>
目的 | 評価項目 | 内容 | |
---|---|---|---|
バリューアップ 計画 開示忠実性の評価 | 理事会(取締役会)の参加 | 向上計画策定時における理事会の参加(決議、報告)の如何 | |
英文開示 | 向上計画に関して英文開示を並行しているか | ||
周期的開示 | 年1回以上開示がなされているか | ||
ガイドライン体系の忠実性 | 現行診断 | 多角的な分析の遂行、資本費用(COE)の提示等 | |
目標設定 | 中長期的目標達成の時期提示、計量化された目標提示など | ||
計画樹立 | 具体的な計画樹立、役職員インセンティブとの連携等 | ||
履行評価 | 自己評価の実行、評価結果を本年の向上計画に活用するなど | ||
疎通 | 経営陣の疎通実績の記載、疎通結果の反映など | ||
バリューアップ 努力評価 | 株主還元および投資努力 | 評価期間中の株主還元・投資の実績、増加の推移など | |
バリューアップ計画に対する市場評価 | 価値向上に向けた進取的な企業価値向上計画を提示し、これにつき、市場が肯定的に評価しているか等を考慮する | ||
模範的な支配構造の構築 | 支配構造の等級、株主価値の尊重・毀損事実など |
韓国取引所は、「株主還元および投資努力」評価の際、企業の業種、状況、特徴等に応じて株主還元または投資項目中一部の項目のみが優秀と評価される場合にも、高得点が可能であると明らかにしています。また、「バリューアップ計画に対する市場の評価」に金融投資業界専門家の意見を反映するとしています。
3. 3次総合評価:企業イシュー等の総合評価
3次総合評価には、学会、金融投資業界、関連機関等の各分野における最高の専門家で構成されている企業バリューアップ諮問団の意見を反映する予定となっています。企業バリューアップ諮問団が最終候補企業を推薦すると、韓国取引所が最終的に1次・2次評価得点、企業価値向上結果、企業価値の向上計画、否定的な企業問題等を考慮した総合評価を終了する計画です。
韓国取引所は、バリューアップ優秀企業選定基準(案)を最終確定し、関連規定を制定する予定です。確定される基準に応じて評価を行い、今年5月に優秀企業10社を選定して表彰する計画となっています。最上位評価2社は経済副総理賞を、次位評価3社は金融委員会賞を、残りの優秀企業5社については韓国取引所理事長賞が授与されます。
4. 「コリア・バリューアップ指数」編入銘柄選定との関係
2024年10月4日付のニュースレター(企業バリューアップ・プログラム関連のアップデート – 韓国取引所におけるコリア・バリューアップ指数の発表)においてご説明させていただきました通り、「コリア・バリューアップ指数」は、全上場銘柄を対象として多様な評価指標を適用した5段階のスクリーニング方式を通じて編入銘柄を選別します。その反面、バリューアップ優秀企業の選定は、企業価値の向上計画を開示した企業を対象とし、評価の方法も「コリア・バリューアップ指数」の編入銘柄の選定方法とは異なります。これにより「コリア・バリューアップ指数」に編入されていない企業も、バリューアップ優秀企業として選定される可能性があり、今回バリューアップ優秀企業に選ばれる場合には、2025年6月から「コリア・バリューアップ指数」に表彰企業特例として編入される可能性があると思われます。
5. 示唆点
今回のバリューアップ優秀企業選定基準(案)の発表は、企業におけるバリューアップ活動の核心指標の選定に役立つものと思われます。TSR、PBR、ROEのような定量指標とバリューアップ計画開示の忠実性およびバリューアップ努力の積極性が優秀企業の選定に最も重要な要素になり得るでしょう。2024年8月28日付のニュースレター(上場企業における企業価値の向上のための企業バリューアップ・プログラムの導入・進行)においてご説明させていただきました通り、優秀企業に選ばれると、税制優遇等の8種のインセンティブが与えられるため、企業らにおいてバリューアップ活動の核心指標の積極的な管理を促すものと思料されます。
上場企業らは、バリューアップ計画の具体的な策定、クリーンな開示、並びに開示内容の積極的な履行を通じて市場での信頼を確保し、これによる優秀企業への選定に注力する必要があります。
法務法人(有)世宗は、企業バリューアップのための立法課題の改善、国内外における事例研究、研究サービス、企業支配構造の改善とESG諮問、資本市場に関連するリーガルサービスを随時行っております。このような業務経験とノウハウを基に、企業分析と法律アドバイス等を通じて現況の診断と目標および計画の設定、履行評価と疎通における効率的なサポートを提供しています。バリューアップ開示についても、法務法人(有)世宗の多様な開示諮問の経験に基づき、法律的要件を満たしながら効果的に履行できるように助言等を行っています。これに関連して問い合わせ等があれば、いつでも担当の専門家までご連絡頂ますようお願い申し上げます。