1.「イルダ」サービスに対する制裁処分:非定型データの活用に係る点検の必要性の台頭

個人情報保護委員会(以下「委員会」といいます。)は、最近、人工知能(以下「AI」といいます。)チャットボット「イルダ」の開発会社である株式会社スキャターラボ(ScatterLab)によるカカオトーク会話等の非定型データの処理に対し、課徴金と過料を合算して合計1億330万ウォンの制裁金を賦課しました。これにより、関連業界において緊張が高まっています。

委員会は、(i)「イルダ」の開発・運営と関連し、カカオトーク会話の収集および利用目的を具体的に特定せず、単に「新規サービス開発」とだけ記載して同意を得たことは、適法な同意と見ることは難しく、また、(ii)「イルダ」のサービス運営時に用いられる応答データベース内のカカオトーク会話を仮名処理せずに共有したことも、個人情報保護法違反と見做しました。

非定型データとは、一定の規格や形態を有する数字データとは異なり、形態や構造が規格化されていない音声・映像・写真・文字等のデータを意味しますが、情報処理容量および速度の向上並びにAIの技術発達により、このような非定型データの活用度が急激に増加しています。同委員会の「イルダ」に関する制裁処分は、アルゴリズム開発のために膨大な学習データが必要なAI技術企業等の非定型データを活用する企業に対し、多大な規制リスクを発生させるものと予想されますが、これについての主な法的争点をまとめると、以下の通りです。

 

2. 主な法的争点

イ. 個人情報保護に関する争点

  • (個人情報保護法の適用) 現在、非定型データそのものを直接規律する法は設けれれていませんが、非定型データに個人情報が含まれている場合には、個人情報保護法に基づく収集・利用上の制限を受けることになります。

  • (収集・利用に関する同意) 非定型データに個人情報が含まれている場合、かかるデータを活用しようとする企業は、情報主体から個人情報の収集・利用についての同意を得る必要があります。

    収集・利用に対する同意の取得において、同意の対象およびその範囲が余りにも抽象的または不明確であるため、情報主体において具体的な内容の予想が困難な場合には、適法な同意として認められない可能性があり、留意する必要があります。

  • (収集目的以外の利用) 収集・利用に対する同意を得たとしても、同意を得た目的範囲を超えての利用は禁止されます。

  • (仮名処理) 非定型データのうち個人情報に当たる部分は、できるだけ仮名・匿名処理により個人識別可能性を取り除き、個人情報保護法に基づく規制リスクを最小にする必要があります。データ三法の改正により、個人情報保護法では仮名処理の特例を導入しており、新規サービス開発目的の仮名処理は、個人情報保護法においては許容されるため、このような仮名処理手続により非定型データを自由に活用する方策を検討する必要があります。

 

ロ. 知識財産権に関する争点

活用対象データに個人情報が含まれていないとしても、このようなデータが、著作物に該当したり、保護価値のある他人の成果物である場合には、知識財産権侵害が問題になり得るため、留意する必要があります。

  • (著作権法について) AI学習およびビッグデータの分析等に活用するデータが、『著作権法』の保護を受ける著作物に該当する場合、複製権および配信権の侵害等が問題になり得ます。

    データ分析を通じて新たな意味を導き出す「データマイニング」のための著作物の利用は、『著作権法』第35条の3による公正利用に該当するとの見方もありますが、現行の『著作権法』では、これに関する明文規定を設けていないため争いの余地があり、個別事例における具体的な著作物の利用方法や内容に応じて著作権侵害の如何に対する判断が異なってくる可能性があります。

    ※ データマイニング過程においての著作物の利用について、「自動化された分析技術により多数の著作物を含む大量の情報を分析する場合」、必要な限度内で著作物の複製・配信を許容する旨の「著作権法全部改正案」(ド・ジョンファン議員による代表発議、議案番号2107440)が発議され、現在、国会の文化体育観光委員会にて係属中です。
     

  • (不正競争防止法について) 特定のデータが、「他人の相当な投資や努力により作られた成果」に該当する場合、これを無断で使用する行為は『不正競争防止および営業秘密保護に関する法律』(以下「不正競争防止法」といいます。)第2条第1号カ(카)目による不正競争行為1に該当することがあります。

    ※ 現在、韓国においても非定型データ保護に関する規定を不正競争防止法に新設しようという議論が行われています。また、日本の場合、2018年の不正競争防止法改正により「限定提供データ2」の不正取得・使用・公開につき、営業秘密の不正取得等に準ずるとして、非定型データに関する保護を明示的に定めています。
     

1 他人の相当な投資や努力により作られた成果等を公正な商取引慣行や競争秩序に反する方法で、自らの営業のために無断で使用することにより、他人の経済的な利益を侵害する行為
2 業として特定の者に対して提供した情報であって、電子的方法により相当量が蓄積、管理されている技術上または営業上の情報

 

3. 関連企業に対する示唆点

ビッグデータの主軸として注目されている非定型データの活用は、アルゴリズムの高度化およびサービス改善のニーズに応じて今後も引き続き増加していくものと予想されます。非定型データの活用増加により、個人情報保護等の関連イシューが持続的に発生し、これに対する規制機関の関心も高まっていくことが明確であるなか、最近の「イルダ」に関する制裁事例は、非定型データ活用に関する規制の始まりに過ぎないと考えられます。

特に、非定型データの活用については、関連する法的争点が、特定の法律に限らず複数の法律に関連しているうえ、現在も法改正の議論が進められており、関連企業としては規制の動向を持続的に把握し、これに対する総合的な対応力を備えておく必要があります。

そのため、非定型データを活用したり活用計画のある企業では、革新に向けた非定型データの活用が制裁という形で跳ね返ってくることがないよう、事前の対策づくりに積極的に乗り出す時期であることを認識し、より一層留意する必要があります。

 

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