退職者が訴訟を通じて会社から職務発明報奨金を受け取ったにもかかわらず、再度会社を相手に職務発明報奨金を請求した事件において、法務法人(有)世宗は、退職者の請求は過去確定している判決の既判力に反するのみならず、職務発明報奨金請求権の消滅時効も完成している旨を主張しました。その結果、特許法院は、法務法人(有)世宗の主張を受け入れ、退職者の請求を一部認容した第一審判決を取り消し、退職者の請求をいずれも棄却しました。
1. 事件の概要および争点
退職者A(以下「A」といいます。)は、2005年3月頃退職した後、2008年会社を相手に職務発明報奨金の支払を求める訴えを提起し、会社は、かかる事件において確定された職務発明報奨金をAに全て支払いました(以下「先行判決」といいます。)。
しかし、Aは、2015年に再び会社を相手に職務発明報奨金の支払を求める訴えを提起し、先行判決の既判力は、2008年までの職務発明報奨金のうち先行事件で請求した金額に限って及ぶため、これを超える残額を請求することができると主張しました。
上記Aの主張に対して、法務法人(有)世宗は会社を代理して、先行判決の既判力は、2008年までの職務発明報奨金に対してのみ発生するものではなく、会社の売上高と推定売上高に基づいて算定された職務発明報奨金の全体に及び、会社に実績報奨金の支払時期を定める規定があったとしても、Aの請求がかかる報奨規定による請求ではない以上、Aは、会社が特許を得られる権利を承継した時点、または遅くともAが退職した時点からは、職務発明報奨金請求権を行使することに何らの法律上の障害がなかったため、本件の訴えが、Aの退職時から10年が経過した後に提起された以上、Aの職務発明報奨金請求権は、既に時効により消滅している旨を主張しました。これにより、本件では、(i)先行事件の進行期間までに発生した会社の売上高を基準として、それ以前の期間における職務発明報奨金に対してのみ既判力が及ぶのか、それとも職務発明報奨金全体に対して既判力が及ぶのか、および(ii)職務発明報奨金請求権の消滅時効の完成の如何につき、職務発明報奨金の支払時期を定めている会社の規定が、当該報奨金請求権者の退職後にも消滅時効の完成に対する法律上の障害になるか否かが主な争点として争われました。
2. 特許法院の判断
争点(i)につき、特許法院は、従業員等の職務発明報奨金請求権は、金銭債権として可分債権ではあるものの、職務発明の承継時点で合理的に予想される職務発明の実施・譲渡等による今後の使用者の利益額等を考慮し、全体として単一に推算される金銭債権として職務発明の承継時点に発生するものであって、使用者の職務発明の実施期間を分け、実施期間毎に区分して金額が算定される性質のものではなく、かつ実施期間に応じて継続的に発生するものでもないため、先行判決の既判力は、職務発明報奨金全体の金額のうち先行判決において請求した金額の範囲に対して及び、2009年以降の売上高を基準とした職務発明報奨金に対しては、先行判決の既判力が及ばないものとみることはできないと判断しました。これにより、特許法院は、Aに認められる職務発明報奨金は、先行判決において請求された金額を超えないため、先行判決に応じた会社の支払によりAの職務発明報奨金請求権は弁済によって消滅しているのみならず、Aの請求は、既判力によっても棄却されるべきであると判断しました。
一方、争点(ii)につき、大法院は、会社の勤務規則等の規定にて職務発明報奨金の支払時期を定めている場合には、その時期が到来するまで、報奨金請求権の行使にあたり法律上の障害があるため、かかる規定に定めらた支払時期が消滅時効の起算点になると判示しているところ(大法院2011年7月28日宣告2009ダ75178判決)、これにより、職務発明者の報奨金請求権が、退職時から10年が経過して行使された場合にも、当該請求権が会社の規定による報奨金の支払時期を基準とする場合、10年が経過していない状態で行使されたのであれば、かかる報奨金請求権の消滅時効は完成していないものと解釈されていました。しかし、本件において法務法人(有)世宗は、会社の規定に職務発明報奨金の支払時期を定めてはいるものの、かかる規定は、職員が退職した場合に関しても適用されるものではないと主張し、少なくとも、Aが退職した時からは報奨金の支払時期に関する会社の規定は、Aの報奨金請求権の行使に法律上の障害になり得ないと主張しました。特許法院は、このような法務法人(有)世宗の主張を受け入れ、会社規定の解釈上、職務発明報奨金の支払時期に関する規定が、職員が退職した場合についても適用されるものと見がたい場合には、かかる職員の退職時から職務発明報奨金請求権の消滅時効が進行するると判断し、それにより、本件では、Aが提起した訴えがAの退職時から10年経過後に提起されたことを理由として、Aの報奨金請求権は、時効の完成により消滅したと判断しました。
3. 意義
本判決は、職務発明報奨金はその性質上、全体として単一に推算される金銭債権であるため、既判力が及ぶ範囲は、職務発明報奨金の全額を基準として判断しなければならないことを明確にすることで、従業員が退職後に実質的に同じ内容の職務発明報奨金請求の訴えを再び提起することは、法的安定性の次元において許容されないとの立場を明確にした点で意味があります。さらに、会社の勤務規則等の規定に職務発明報奨金の支払時期を定めている場合、そのような規定は、例え、職員の職務発明報奨金請求がかかる報奨規定に基づくものではない場合にも、消滅時効の進行に関する法律上の障害と認められ、使用者にとって不利に解釈されてきましたが、本判決は、そのような規定も、従業員が退職した場合まで法律上の障害となるものではないことを明確にすることにより、両方の利害関係をある程度バランスよく調整する結論を導き出したという点で重要な意義があると思われます。
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