1.「デジタルヘルスケア振興および保健医療データ活用促進に関する法律案」発議の背景

2022年10月7日付で「デジタルヘルスケア振興および保健医療データ活用促進に関する法律案」(以下「本法律案」といいます。)が国会に発議されました。本法律案の主な目的の一つは、保険医療データの活用促進および安全な活用支援として、①個人医療データの仮名処理および仮名医療データの処理に関する事項、②本人データの本人伝送要求権、③本人データの第三者への伝送要求権をその核心内容としています。

上記のように、本法律案には、保健医療データを活用したマイデータサービス、先端医療機器やソフトウェアの開発等、バイオ・ヘルスケア産業の全般に亘って影響を及ぼし得る内容が盛り込まれているところ、以下では、本法律案に盛り込まれている保険医療データの活用に関する主な内容と、それに基づく示唆点についてご説明させて頂きます。

 

2.保健医療データ活用に関連する主な内容

区分 主な内容
個人医療データの仮名処理及び仮名医療データの処理 (第10条、 第11条)
  • 個人医療データ処理者は、統計の作成、科学的研究、公益的な記録保存等のため、個人医療データを仮名処理するか、仮名医療データを処理することができる。
  • 個人医療データ処理者は、仮名処理業務の全部または一部を関係専門機関等に委託することができる。
  • 個人医療データ処理者のうち、医療従事者および薬局開設者等(以下「医療従事者等」という。)は、医療法および薬事法上の制限にもかかわらず、個人医療データを仮名処理するか同機関に所属している個人医療データ処理者に対し、仮名処理の権限を委任することができる。
  • 個人医療データ処理者が個人医療データを仮名処理し『生命倫理および安全に関する法律』に基づく人間対象研究を行う場合には、研究対象者の同意や機関生命倫理委員会の審議が免除され得る。
  • 個人医療データ処理者が個人医療データを仮名処理、または仮名医療データを処理するためには、機関保健医療データ審議委員会を設置・運営しなければならない。
本人データの本人伝送要求権(第13条)
  • 医療データの主体は、本人の識別医療データ*を有する者(以下「データ保有機関」という。)に対し、本人の医療データを本人に伝送するよう要求できる。
    * 氏名、住民登録番号等を通じ、データ主体を識別できる保健医療データ
  • 伝送対象の識別医療データには、(i)診断内訳、処方内訳、検体・映像・病理検査結果等の患者診療等に関連して生成された記録、(ii)処方薬品名と日数、調剤の内容および服薬指導の内容等の調剤等に関連して生成された記録、(iii)医療機器または健康管理機器を通じて生成・収集された医療データ等が含まれる。
  • 医療データの主体は、データ保有機関に対して定期的に同内訳の医療データの伝送を要求することができる。
  • この場合、データ保有機関は、保健福祉部令で定めるところにより、医療データの主体に対して医療データを伝送しなければならない。
本人データの第三者への伝送要求権(第14条)
  • 医療データの主体は、データ保有機関に対して本人関連の医療データを、これを活用しようとする機関に伝送するよう要求することができる。
  • この場合、データ保有機関は、医療法、薬事法、『生命倫理および安全に関する法律』上の制限にもかかわらず、保健福祉部令に定めるところにより、医療データの主体が指定する機関に、医療データを伝送しなければならない。

 

3.示唆点および展望

ア.個人医療データの仮名処理および仮名医療データの処理に関する事項
個人情報保護法上の個人情報の仮名処理に関する規定にもかかわらず、医療法等との関係において明確でない部分があり、医療データの仮名処理および仮名医療データの処理に関しては、これまで保健福祉部が発刊している「保健医療データ活用ガイドライン」に基づいて処理していました。ところが、これに関連し、同ガイドラインは、法的拘束力がないという問題提起がなされてきたため、この機会に、個人医療データ処理者、特に医療従事者等が医療法上の患者に関する記録ないし薬事法上の調剤記録簿を仮名処理できる法律根拠を明確にするということから、本法律案が発議されたものと思われます。

これにより、本法律案は、同ガイドラインの主な内容を反映しているものの、同ガイドライン上のデータ類型別の仮名処理方法ないし仮名処理の可否、外部機関に機関保健医療データ審議委員会の審議業務を委託できるか否かに関する内容等は、本法律案に盛り込まれていないため、そのような事項が今後、本法律案および下位法令の制定過程において、どのように反映されるかにつき、注視していく必要があります。

 

イ.本人データの伝送要求権

現行の医療法および薬事法上の医療従事者等は、「患者に関する記録」および「調剤記録」を患者または患者の代理人ではない第三者への提供が出来ないものとなっています。本法律案は、医療データ主体が多様な機関から本人の医療データを活用した個々に合わせたサービス等の提供が受けられるように、医療データ保有機関の有する医療データを医療データ主体が指定する機関に対して伝送できるものとしました。

本法律案が法律として制定される場合、これにより保健医療データを活用したマイデータサービスが活性化され、医療機器やソフトウェア開発事業者における保健医療データの伝送事業への進出もより活発になるものと予想されます。

 

法務法人(有限)世宗は、保健医療データ活用に関連して多様な側面からの法律アドバイス等を提供しています。上記の内容につき、ご質問等がございましたら、下記の連絡先までご連絡ください。より詳細な内容について対応させて頂きます。