2022年9月10日に検事における直接捜査開始範囲を縮小する内容等が盛り込まれた改正刑事訴訟法および検察庁法が施行され、これに合わせて、大統領令の「検事の捜査開始犯罪範囲に関する規定」についても、大幅に改正されて同日施行となりました。その主な内容の変更は、次のとおりです。

 

1. 2022年9月10日付の改正刑事訴訟法および検察庁法の施行

検事の直接捜査開始の範囲を従前の6大犯罪(腐敗犯罪、経済犯罪、公職者犯罪、選挙犯罪、防衛事業犯罪、大型惨事犯罪)から2大犯罪(腐敗犯罪、経済犯罪)へと縮小する内容等が盛り込まれた改正検察庁法、異議申請人の範囲から「告発人」を除外する等の内容が盛り込まれた改正刑事訴訟法が、改正後4箇月となる2022年9月10日に各々施行されました。

改正刑事訴訟法および検察庁法の主な内容は、下記のとおりです。

1.改正の核心内容

①検事における直接捜査開始の犯罪範囲の縮小(6大犯罪→2大犯罪)[検察庁法]
②自身が捜査開始した事件に対する公訴提起の禁止[検察庁法]
③司法警察官の一般送致事件に対する補完捜査条項はそのまま維持し、その他の送致事件の場合、同一性を害しない範囲内でのみ補完捜査が可能[検事訴訟法]

2.その他の改正内容

①検事の直接捜査開始の範囲に属する「警察公務員の犯罪」における「警察公務員」に「特別司法警察官」を含め、「高位公職者犯罪捜査処所属の公務員」を追加[検察庁法]
②司法警察官の不起訴処分通知に対する異議申立人の範囲から「告発人」を除く[刑事訴訟法]
③捜査中の事件の犯罪嫌疑を明らかにするための目的の別件捜査の禁止および別件証拠等を通じた当該事件の自白や供述の強要禁止[刑事訴訟法]

※改正刑事訴訟法および検察庁法の具体的な内容は、 2022年5月11日付の弊社ニュースレターの「刑事訴訟法・検察庁法改正案の主な内容」を参考にしてください。

 

2. 2022年9月10日改正「検事における捜査開始犯罪範囲に関する規定」(大統領令)の施行

検事の直接捜査開始の範囲を2大犯罪へと縮小させる改正検察庁法第4条第1項第1号カ目の施行に伴い、検事は「腐敗犯罪、経済犯罪等の大統領令にて定める重要犯罪」についてのみ、直接捜査を開始できるようになりました。

改正前 改正法律施行(2022/9/10)後
第2条(重要犯罪)
「検察庁法」(以下「法」という。)第4条第1項第1号カ目にて「腐敗犯罪、経済犯罪、公職者犯罪、選挙犯罪、防衛事業犯罪、大型惨事等の大統領令にて定める重要犯罪」とは、次の各号の犯罪をいう。
第2条(重要犯罪)
「検察庁法」(以下「法」という。)第4条第1項第1号カ目にて「腐敗犯罪、経済犯罪等の大統領令にて定める重要犯罪」とは、次の各号の犯罪をいう。

これにつき、政府は、法務部長官の主導のもと、検事が直接捜査を開始できる重要犯罪の従前の分類体系を改編する旨の改正「検事の捜査開始犯罪範囲に関する規定」(大統領令)を設け、改正法律施行に合わせて同日施行されることになりましたが、その主な内容については、下記のとおりです。

 

ア.「重要犯罪」の分類体系の改編等(第2条関連)

1)「腐敗犯罪」と「経済犯罪」の拡大(第2条第1号、第2号)

従前の大統領令では、検事が直接捜査を開始できる6大重要犯罪(腐敗犯罪、経済犯罪、公職者犯罪、選挙犯罪、防衛事業犯罪、大型惨事犯罪)を大統領令に直接列挙する形で規定していたものの、改正大統領令では、検事が直接捜査を開始することができる2大重要犯罪である「腐敗犯罪」と「経済犯罪」の定義を定めた後、具体的な範囲については、別表に規定する方式を取っています。

腐敗犯罪(第2条第1号) 経済犯罪(第2条第2号)
事務の公正を害する不法または不当な方法により、自己または第三者の利益や損害を図る、または職務に関連してその地位または権限を乱用するか、犯罪の隠蔽やその収益の隠匿に関連する別表1に規定されている罪 生産・分配・消費・雇用・金融・不動産・流通・輸出入等の経済の各分野において、経済秩序を害する不法または不当な方法により、自己または第三者の経済的利益や損害を図る別表2に規定されている罪

改正検察庁法の施行により、「重要犯罪」が6大重要犯罪から2大重要犯罪へとその範囲が縮小されることに伴い、従前の大統領令に基づく場合、検事の直接捜査開始の犯罪の範囲が大幅に縮小されてしまうものであったものの、改正大統領令においては、腐敗財産の没収および回復に関する特例法(腐敗財産没収法)第2条の定義規定で定義している「腐敗犯罪 」を一括して直接捜査開始を可能とする「腐敗犯罪1」に盛り込ませたり、従前の大統領令に基づく際、「公職者犯罪」に属していた公務員における職務遺棄(刑法第122条)、職権乱用(同法第123条)等の犯罪を「腐敗犯罪」に盛り込まれ、かつ、収賄犯罪等の捜査開始の細部基準2を定めている施行規則を廃止し、直接捜査開始が可能な腐敗犯罪の範囲が従前の大統領令に比べて拡大されています。

一方、経済犯罪の場合、従前の大統領令においては、詐欺・恐喝・横領・背任の利得額(被害額)が5億ウォン以上の場合として、『特定経済犯罪加重処罰等に関する法律』第3条に基づき、処罰が可能な場合にのみ、検事における直接捜査開始ができるように規定していたものの、改正大統領令では、利得額の制限を撤廃することで、全ての詐欺・恐喝・横領・背任の犯罪に対する検事の直接捜査開始が可能なものとしており、租税犯罪の場合にも同様に、脱税税額、供給価額等の額に対する制限をなくし、全ての犯罪について直接捜査開始が可能なものとする等、直接捜査開始が可能な経済犯罪の範囲が従前の大統領令と比べて大幅に拡大されました。

主な腐敗犯罪(別表1) 主な経済犯罪(別表2)
  • 『腐敗財産没収法』に規定されている腐敗犯罪
  • 公務員の職務関連の腐敗犯罪(職権濫用等)
  • 公職者の淸廉義務違反の犯罪(『請託禁止法』違反等)
  • 不法的利益が絡む選挙関連の犯罪
  • 各種補助金関連の犯罪
  • 犯罪収益・マネーロンダリング関連の犯罪
  • 詐欺・恐喝・横領・背任等の基本的な財産犯罪
  • 租税・関税の脱税犯罪
  • 金融関連の犯罪
  • 公正取引犯罪
  • 技術侵害犯罪
  • 不動産犯罪
  • 麻薬類流通に関連する犯罪(単純所持・投薬を除く。)
  • 経済犯罪目的の組織犯罪(庶民喝取、企業型の反社会的勢力、ボイスフィッシング等)

 

2)「司法秩序を阻害する犯罪」等の追加(第2条第3号)

政府は、国家司法秩序の根幹を脅かす犯罪に対する処罰の空白を防止するという趣旨のもと3、改正大統領令第2条第3号カ目に「誣告・逃走・犯人隠匿・証拠隠滅・偽証・虚偽鑑定通訳・報復犯罪および陪審員の職務に関する罪等の司法秩序を阻害する別表34に規定されている罪」の規定を追加することにより、司法秩序を阻害する犯罪に対する検事の直接捜査開始が可能なものとしました。

また、検事を告発の対象機関として限定する個別法の趣旨を尊重し、捜査開始の可否についての解釈上の論争の余地を遮断するための趣旨で、改正大統領令第2条第3号ナ目では「個別法律にて国家機関が検事に対して告発するか、捜査依頼をするように規定した犯罪」規定の追加も行っています。


イ.「直接関連性」の範囲修正(第3条関連)

2021年1月1日の検事・警察における捜査権調整施行当時から検察庁法第4条第1項第1号タ目では「カ目・ナ目の犯罪および司法警察官が送致した犯罪と関連して認知する各当該犯罪と直接関連性のある犯罪」規定を定めることにより、検事が直接捜査を開始して進める過程において判明した別件犯罪の嫌疑に対する捜査の可能性を見出すと同時に、「直接関連性のある犯罪」に限定することで、捜査範囲の拡大を制限してきました。

ただし、上記の「直接関連性」の範囲につき、従前の大統領令では、①被疑者同一(a. 同種犯罪、b. 犯罪収益関連の賄賂・横領・背任または、c. 令状による証拠共通限定)、②共犯、同一の日時・場所等、③同一の目的/手段・結果の関係、④独立行為の競合、⑤誣告等の制限を定めることにより、その範囲が相当厳格に制限されていたものの、一角では、このような制限に対して「法律の委任なしに直接関連性の範囲を過度に制限し、不当な手続きの遅延と無益な手続き重複の強制」であるという批判が出ていました。

これにつき、改正大統領令においては、「犯人・犯罪事実・証拠のうちのいずれかを共通」とする場合、直接関連性があると規定するものの、改正刑事訴訟法第198条第4項の「別件捜査の制限」を活用してその範囲の無分別な拡大を防ぐものとしています。

 

3. 予想される今後の検察直接捜査の動向

2021年1月1日の改正検察庁法および刑事訴訟法の施行に続き、2022年5月の上記法律らが追加で改正されたことで、検事の直接捜査権が大きく委縮してしまうものと予想されており、実際に選挙犯罪、公職者犯罪、大型惨事犯罪等に関しては、検事の直接捜査開始が大幅に減るものと予想されます。

しかしながら、腐敗犯罪と経済犯罪の場合、改正大統領令の施行により、むしろその範囲が拡大されており、司法秩序の阻害犯罪等が追加され、直接の捜査開始の範囲から省かれた選挙犯罪と公職者犯罪、並びに防衛事業犯罪の場合に、一定部分が「腐敗犯罪」ないし「経済犯罪」として盛り込まれており、依然として、捜査開始が可能であるだけに、主な犯罪に対しては、検察の直接捜査は委縮されるというより、むしろ以前に比べ活発に展開されていくものと予想されます。

 

1 腐敗財産没収法の別表では、1号刑法上の公務員の職務に関する罪から29号伝統闘牛競技に関する法律において処罰対象としている犯罪に至るまで、多様な法律上の犯罪を腐敗犯罪として規定しています。
2 従前の施行規則では、特定犯罪加重処罰等に関する法律第3条にて規定する「斡旋受財」に関連する授受金額が5,000万ウォン以上の場合にのみ、検事の直接捜査開始が可能なものとするなど、腐敗犯罪、経済犯罪等に対する捜査開始の細部基準を設けていたものの、2022年9月10日付で廃止となり、このような制限がなくなりました。
3 法務部の発表資料によると、上記規定の導入の切っ掛けに関連し「現行法令上、警察が送致しなかった事件は誣告嫌疑が認められても検事が捜査を行うことができない構造的問題がある」という点について言及しています。
4 別表3:刑法第2編第9章の逃走と犯人隠匿の罪、第10章の偽証と証拠隠滅の罪、第11章の誣告の罪に該当する罪(他の法律に基づき加重処罰されるか、準用される場合を含む。以下同様。)(以上第1号)、特定犯罪加重処罰等に関する法律第5条の9(報復犯罪の加重処罰)に該当する罪(第2号)、国民の刑事裁判参与に関する法律第56条ないし第59条に該当する罪(第3号)