韓国の金融委員会/金融監督院/韓国取引所では、2021年1月14日付で、(i)公示に対する企業の負担を合理的に軽減し(四半期報告書のひな型は、核心情報を中心として残し、現在の公示項目の40%縮小)、(ii)企業のESGについての自律公示を活性化する一方、段階的に義務化を推進(2025年から資産2兆ウォン以上、2030年からは全ての韓国取引所有価証券市場上場会社(以下「KOSPI上場会社」といいます。)へと拡大)し、(iii)投資家の利用便宜性を高め、投資家保護を強化するなどの内容を骨子とする「企業公示制度総合改善策」を発表しました。
特に、上記のうちESGについて発表された内容は、以下のとおりです。
1. 企業支配構造報告書の義務化の拡大
(現行)企業支配構造報告書(G)*の場合、2019年から資産総額2兆ウォン以上のKOSPI上場会社の取引所公示が義務付けられている。
* 株主の権利、取締役会および監査委員会の構成および運営現況、外部監査人の独立性等の企業支配構造に関する事項を盛り込んだ報告書
(改善策)かかる義務公示の対象は、2022年、資産総額1兆ウォン以上、2024年、5千億ウォン以上、2026年には全てのKOSPI上場会社へと段階的に拡大する予定。
2. 持続可能経営報告書公示の活性化
(現行)持続可能経営報告書(ESG)*は、現在100余りの企業が発刊しているが、そのうち韓国取引所に公示する企業は、20社(2019年基準)に過ぎない。
* 環境に関する機会・リスク要因および対応計画、労使関係・両性平等といった社会問題に対する改善の努力等、持続可能経営に関する事項を盛り込んだ報告書
(改善策)取引所自律公示の活性化および段階的公示義務化の推進
- 1段階(2025年まで):「ESG情報開示ガイダンス(取引所、2021年1月発表予定)*」を提示し、「持続可能経営報告書」の自律公示の活性化
- 2段階(2025年~2030年):一定規模以上(例:資産2兆ウォン以上)のKOSPI上場法人に対し、公示の義務付
- 3段階(2030年以降):KOSPI上場会社の全体に対し、公示の義務付け
* ESG情報開示ガイダンスの主な内容:正確性、明確性、比較可能性、適時性等のESG情報開示の一般原則、公示標準化のために産業別の特性を考慮したベストプラクティス(Best Practice)の提示等
3. 議決権諮問会社に対する管理/監督の強化
(現行)議決権諮問会社*は、機関投資家を対象として投資対象企業の株主総会案件を分析し、議決権の行使方向を勧告するサービスを提供しており、以下のような問題が発生する可能性がある。
* (韓国)企業支配構造院、デシン経済研究所(Daishin Economic Research Institute)、サスティンベスト(Sustinvest)/(韓国外)ISS、Glass-Lewis等
- 利害相反問題:議決権諮問会社が、機関投資家と企業を同時にクライアントとしてサービスを提供する場合、利害相反の問題が発生する可能性がある
- 専門性問題: 議決権諮問会社が、案件分析、議決権の行使方向についてのアドバイスにおいて必要とされる十分な分析能力と専門性を備えているか否かについて問題になり得る
- 正確性・透明性問題:勧告案の作成において使用された資料の出所、作成方法およびその過程等に対する情報公示の不十分
(改善策)今年中に「議決権諮問会社利用ガイドライン」を制定:議決権諮問会社が、 行動規範(code of conduct)、利害相反の防止・統制方策、分析能力および専門性等についての情報を金融投資業者に対して定期的に提供し、これを対外的に開示するよう勧告し、間接的に管理・監督を行う。
今後、資本市場法に管理・監督の関連根拠を設ける方策を検討:金融投資業者に対し、議決権諮問会社の利用に関する内部統制基準を作るよう義務付けたり、議決権諮問会社に対する登録または申告制度の導入等を検討する。
4. スチュワードシップ・コード(Stewardship Code)*の成果評価および改正検討
* 年基金、資産運用会社等の機関投資家の議決権の行使を積極的に誘導するための自律指針であり、機関投資家が投資企業の意思決定に積極的に参加し、株主と企業の利益追求、成長、透明な経営等を導き出すことを目的としている。韓国では、2016年に施行された以降、韓国最大の投資機関である国民年金が2018年7月からこれを導入し、投資企業の株主価値の向上、大株主の専横の阻止等のため、株主権を行使している。
(現況)2016年12月のスチュワードシップ・コードの制定後、133(2020年11月)の機関投資家が、スチュワードシップ・コードを採用している。
(改善策)制定から5年目となるだけに、これまでの施行成果を評価し、これを基にスチュワードシップ・コードの改正を検討(2021年第4四半期)する。
* 最近、ESGに関する機関投資家の受託者責任活動の強化等のため、スチュワードシップ・コードを改正したイギリスと日本の事例等を参照
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