[1]共有水面の管理および埋立に関する法律の一部改正

2021年12月9日付で共有水面の管理および埋立に関する法律(以下「共有水面法」という。)の一部改正法律案(以下「本改正案」という。)が国会本会議を通過しました。

本改正案においては、共有水面管理庁により共有水面の占用・使用許可、協議または承認をする際に、(ⅰ)それにより被害が予想される近海漁業および沿岸漁業の許可を得た者の有無を確認し、当該権利者らの意見を受け入れるものとし、また(ⅱ)それにより被害が予想される権利者(以下「関連権利者」という。)の有無を確認するものとする規定を新設しました。

改正前の共有水面法においては、共有水面管理庁によるこのような意見受入れおよび確認手続きがなく、かつ占用・使用許可、協議または承認申請者が必要に応じ、自主的に関連権利者の確認を行って手続きを進めてきました。その過程で第三者の共有水面の占用・使用に敏感な漁民からの意見受入れが不十分であったり、同意書を得るにあたり、一部の関連権利者の漏れが発生するなどの問題があり、これによるコンプレインや紛争も多数生じていました。

本改正案は、上記のような問題を解消するための目的で、共有水面管理庁が直接一定の漁業権を有する漁民の意見を受け入れる手続きを経るものとし、また関連権利者の有無についても確認するものとしました。

 

[2]海上風力発電に関連し本改正案が持つ示唆点

共有水面法に基づく共有水面の占用・使用許可は、海上風力発電事業の核心的な許認可につき、共有水面の占用・使用に関連して住民らの受入れ(住民らの当該事業受入れの傾向性)の側面において、操業/移動/生存権を根拠とする近隣漁民からの強い反発を受けることが多くありました。

本改正案の以前には、漁民を説得して同意を求めることを大部分の申請者が自主的に行ってきたものの、今後は、共有水面管理庁が直接このような公式的な手続きを通して、漁民の意見受入れを行うこととなり、その過程で漁民を説得し、同意を求めることがよりスムーズに行われ、また同意書を得るべき関連権利者の確認を共有水面管理庁が事前に行うため、事後に同意書の漏れがあるなどして、行政への申出や紛争の発生等を減らすことができるものと予想されます。

しかしながら、このような漁民からの意見受入れの手続きは、基本的に共有水面の占用・使用により被害を受ける漁民を保護し、住民の受入れ確保をさらに強化するための目的により導入されたものであり、またその主宰者は、政府機関の共有水面管理庁であるため、より透明かつ公正な手続きが行われるであろうということから、本改正案の施行前に比べ、海上風力発電事業の施行に向けた準備期間がさらに増える可能性もあります。また一定の漁業権を有する漁民からの意見受入れ手続きが法制化されることにより、漁民らとの補償協議の実務が大きく変化する可能性もあります。海上風力発電事業は、他の新再生エネルギー発電事業に比べ、事業準備に長期間かかり、事業の不透明性が高い点を考慮すると、本改正案が今後、海上風力発電事業にどのような影響を及ぼすのかについて注目が集まっています。

一方、中央行政機関によって海上風力発電事業の複雑な許認可を一括処理するものとすることで、開発期間を画期的に短縮する内容の風力開発普及促進特別法(別名「ワンストップショップ法」という。)が去る5月に発議されたものの、現時点まで環境規制緩和に対する漁民の激しい反対により議論が中断しているものの、共有水面法が住民受入れの確保を強化する内容へと改正されることにより、ワンストップショップ法の改正議論にどのような影響を与えるかについても、引き続きモニタリングする必要があるものと見られます。
 
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