法務法人(有限)世宗は、2021年12月22日付のニュースレターを通じて、2022年度に施行される改正『不正競争防止および営業秘密保護に関する法律』(以下、「不正競争防止法」といいます。)の内容についてご紹介させて頂きました。本ニュースレターにおいては、2022年度に施行される改正不正競争防止法以外の知的財産権法改正法律、すなわち2022年上半期に施行される2件の特許法改正法律(法律第18409号、2022年2月18日施行;法律第18505号、2022年4月20日施行)を含め、2件のデザイン保護法改正法律(法律第18404号、2022年2月18日施行;法律第18500号、2022年4月20日施行)、商標法改正法律(法律第18502号、2022年4月20日施行)の内容についてご紹介させて頂きます。なお、22日付のニュースレターで先に取り扱った不正競争防止法改正法律については、新規導入されたデータ不正使用に関する条項を中心に、今後の適用過程において争点となりうるイシューについて検討したいと思います。
[特許法、デザイン保護法、商標法改正内容]
1. 共通する改正内容
(1)2022年2月18日付施行予定法律の主な改正内容
(ア)特許料および手数料の減免事由の追加、不正減免者の制裁強化
2022年2月18日に施行予定の改正特許法(法律第18409号)においては、コロナウイルスのような国家レベルの災難によって困難な状況にある中小企業等の負担を緩和するため、これを特許料および手数料の減免事由に追加し(第83条第2項)、それと同時に、不正減免者については、減免額の二倍を徴収できる一方、一定期間減免の対象から除外するなど、制裁を強化しました(第83条第4項)。同じ改正内容が同日に施行予定である改正デザイン保護法(法律第18404号)にも反映されています(第86条第2、3項)。
(イ)審判手続きにおける審判長の調停回付条項の新設および適時提出主義の導入
上記改正特許法およびデザイン保護法においては、産業財産権紛争調停制度を活性化し、審判の長期化による中小企業等の問題等を解消するため、次のような規定を導入しました。第一に、審判長が必要であると判断する場合、当事者の同意を得て審判手続きを中止し、決定をもって当該事件を調停委員会に回付できるものとする根拠条項を設け、さらに、調整回付の実効性を確保するため、記録の送付、調整成立時の審判請求の取下げみなし、書類搬出の例外に関する規定を新設しました(特許法第164条の2,第217条第1項第1の2号;デザイン保護法第152条の2、第207条第1項第1の2号)。第二に、迅速に審判をすすめるために、審判手続きにおける主張・証拠提出につき、民事訴訟法の適時提出主義規定を準用するものとして改正しました(特許法第158条の2;デザイン保護法第146条の2)。
(2)2022年4月20日付施行予定法律の主な内容内容
(ア)手続き的な欠陥治癒の範囲拡大等の出願人の便宜を図った手続き緩和
2022年4月20日施行予定の改正特許法(法律第18505号)には、出願人の便宜を図る手続き緩和に関する改正内容が盛り込まれています。補正命令の未遵守による手続きの無効処分の取消請求および特許出願回復請求の事由を出願人等が『責任をとれない事由』から『正当な事由』へと緩和し、出願人の持病や特許庁顧客センターの誤案内等の出願人に責任のない事由であるかが曖昧な事由についても、手続き的欠陥を治癒する可能性を確保する方向へと制度の改善がなされました(第16条第2項、第67条の3第1項)。また、分割出願の際、誤りのある優先権主張趣旨の記載漏れによって拒絶される場合を救済するため、分割の基礎出願につき、優先権主張がある場合には、分割出願についても優先権主張をしたものと見做すものの、所定期間内に、優先権主張を取り下げることができるものへと改正されました(第52条第4、5項)。上記の各改正内容は、同日付で施行される改正デザイン保護法と改正商標法にも反映されています(条文番号省略)。
一方、特許拒絶決定謄本の送達を受けた後、分割出願が可能な期間を30日から3ヶ月へと延長すること(第52条第1項)をはじめ、変更出願期間(第53条第1項第1号)、再審査請求期間(第67条の2第1項)、拒絶決定不服審判請求期間(第132条の17)を30日から3ヶ月へと延長し、出願人の便宜を図りました。法定期間に関連する手続き緩和の上記改正内容は、同日付で施行される改正デザイン保護法および改正商標法にもほぼ同様に反映されています(条文番号省略)1
(イ)共有者の場合にも質権行使による法定通常実施権の取得可能
特許法は、特許法に質権設定する前から特許発明を実施していた特許権者に対し、その特許権が競売等によって移転されるとしても、特許発明につき通常実施権を有するものと規定していました(第122条)。改正特許法では、右の通常実施権を共有の特許権についても拡張しました。すなわち、共有の特許権の分割請求前から特許発明を実施していた特許権共有者が、特許権が競売等により移転されたとしても、その特許発明について通常実施権を有するものとすることで、自らの意思とは無関係な実施事業の中断から保護されるものとしました。同様の内容を反映しデザイン保護法第110条が改正されており、商標法第104条の2が新設されました。
2.特許法の改正内容
(1)職権補正に対する無効みなし規定、審判研究官に関する法的根拠の導入
2022年2月18日に施行される改正特許法においては、審査官の誤った職権補正により出願人が意図していない権利が発生する事態を防ぐために、職権補正の範囲を出願人による補正と同様に、出願書に最初に添付されている明細書・図面の範囲として明示的に制限すると同時に、上記範囲を超えていたり、明白に誤りのない事項を対象とする職権補正を最初からなかったものと見る職権補正無効みなし規定を導入しました(第66条の2第1、6号)。
また、上記改正特許法は、これまでの訓令や例規に基づき特許審判院に置いていた審判研究官の法的根拠づくりのため、審判研究官に関する明文規定を新設しました(第132条の16第3項)。
(2)分離出願制度の導入
2022年4月20日に施行される改正特許法は、第55条の2を新設し「分離出願」という制度を新たに導入しました。分離出願は、特許拒絶決定に対する不服審判請求が棄却された場合にも、拒絶決定において拒絶されていない請求項、拒絶決定の基礎となる選択的記載事項を削除した請求項のみをもって請求範囲を構成するなどにより、既存の特許出願の一部を分離して新たに出願できるものとする制度として、これにより出願人の特許取得の機会がより一層拡大されました。分離出願は、上記改正法施行後、拒絶決定不服審判が請求されている特許出願について適用されます(附則第4条)。
3.デザイン保護法および商標法の改正内容
2022年4月20日に各々施行予定の改正デザイン保護法(法律第18500号)と改正商標法(法律第18502号)においては、デザインまたは商標登録決定後に審査官が明白な拒絶理由を発見した場合に、職権によりその登録決定を取り消し、当該出願を再度審査できるものとする職権再審査規定を新設しました(デザイン保護法第66条の2、商標法第68条の2)。職権再審査制度は、2017年3月1日に施行された特許法上の制度と同様のものとして、デザインと商標についても、瑕疵のある権利の発生を防止し、権利登録の無効可能性を事前に遮断しようとする公益的目的に基づいて導入された制度です。
[改正不正競争防止法に新規導入されたデータ不正使用行為条項の争点]
2021年12月22日に発刊されたニュースレターを通じてご紹介したとおり、2022年4月20日付で施行予定の改正不正競争防止法(法律第18548号)は、新たな不正競争行為の類型として、データ不正使用行為と有名人識別表示の無断使用行為を追加しました。最近大法院では、放送局3社において地方選挙出馬区調査の結果を無断で放送した行為を不正競争防止法第2条第1号カ目の不正競争行為として認め(大法院2017年6月15日宣告2017ダ200139判決)、BTSの氏名、肖像等を商品、広告等に無断使用した行為についても、上記カ目による不正競争行為として認めています(大法院2020年3月26日付2019マ6525決定)。改正不正競争防止法は、このような行為につき、法第2条第1項カ目の補充的一般条項による保護のみでは限界があるという判断に基づき、上記各具体的な不正競争行為の類型に関する規定を各々カ目とタ目として新設し、従前のカ目は、パ目へと条文の位置を変更しているところ、以下では、改正不正競争防止法に新規導入された不正競争行為の類型のうち、データ不正使用行為の立法趣旨、予想される問題点等について、具体的に検討してみます。
1.データ不正使用行為{改正不正競争防止法第2条第1号カ目(以下「改正カ目」)}に関する改正法の内容
- 1)アクセス権限のない者が窃取・欺瞞・不正アクセスまたはその他の不正な手段により、データを取得、またはその取得したデータを使用・公開する行為
- 2)データ保有者との契約関係等により、データにアクセス権限がある者が不正な利益を得るか、データ保有者に損害を負わせる目的で、そのデータを使用・公開、または第三者に提供する行為
- 3)1)または2)が介入する事実を知りながらデータを取得、またはその取得したデータを使用・公開する行為
- 4)正当な権限なしに、データの保護のために適用した技術的保護措置を回避・除去または変更(以下「無力化」という。)することを主な目的とする技術・サービス・装置またはその装置の部品を提供・輸入・輸出・製造・譲渡・貸与または伝送するか、これを譲渡・貸与するために展示する行為。ただし、技術的保護措置の研究・開発のために技術的保護措置を無力化する装置またはその部品を製造する場合には、その限りではない。
改正カ目の保護対象であるデータは、『相当量蓄積・管理』されるべきであるため、ビッグデータのような相当な規模のデータのみが保護範囲に含まれ、『業として特定人または特定多数に提供されるものとして、(中間省略)秘密として管理されていない』ものでなければならないため、営業秘密に該当しないデータのみがこれに該当します。改正カ目は、このようなデータと関連する不正競争行為の類型として、営業秘密侵害行為と類似する、1)アクセス権限のない者の不正取得および使用・公開行為、2)アクセス権限がある者の不正目的によるデータ使用・公開・第三者への提供行為、3)上記のような行為が介入する事実を知りながら行ったデータ取得・使用・公開の行為を規定し、著作権法上の技術的保護措置の無力化行為と類似する4)データ保護のために適用した技術的保護措置の無力化手段の製造および流通行為を規定しています。
2.改正法の立法趣旨および予想される問題点
上記のようなデータの定義および不正競争行為の類型は、特許庁が報道資料にて明らかにしたとおり、日本の不正競争防止法における『限定提供データ』およびそれに関連する不正競争行為の規定を参照して導入したものとみられます。改正カ目は、データに関連する不正競争行為の制裁効果があるものと予想されるものの、次のような点において一部議論になるものと予想されます。
第一に、改正カ目の不正競争行為は、営業秘密侵害行為とは異なり、(i)データについて不正取得行為が介入している事実を重大な過失とは知らずに取得、または使用・公開する行為は、不正競争行為に含まれておらず、(ii)不正取得行為が介入している事実を知らずにデータを取得した場合、その後に取得者がそのような事実を知ったにもかかわらず、継続して使用・公開する行為についても、不正競争行為から除外しています。このように営業秘密侵害の行為の様態の一部類型を除いたことによる空白に関し、議論され得るものと思われます。
第二に、改正カ目1)の不正競争行為の具体的な行為の様態を構成する『公開』が、営業秘密侵害行為の『公開』、すなわち秘密を維持しながら特定人に知らせることを含むものなのかにつき、解釈において問題になり得ます。営業秘密侵害に関する第2条第3号ガ目では、秘密を維持しながら特定人に知らせることも公開に含まれると明示されており、改正カ目2)においても、公開と第三者への提供を区分して規定しているものの、それよりも上位にある1)においては、そのような明示規定を定めていないためです。よって、改正カ目1)に関連しては、理論上秘密を維持しながら特定人に提供する行為は、データ侵害に該当しないという主張も可能で、このような場合、規定の空白が生じることもあり得ます。
第三に、改正不正競争防止法第18条第3項第1号は、改正カ目1)ないし3)を刑事処罰の対象から除外し、4)のみを刑事処罰の対象としています。著作権法においても、技術的保護措置の無力化に関する刑事処罰規定を定めているものの、著作権法では「業としてまたは営利を目的として」技術的保護措置の無力化行為をした場合についてのみ、処罰の対象としており、免責事由として技術的保護措置の研究・開発の目的以外に、多様な複数の事由を規定しており、または直接的な著作権侵害行為に比べ、相対的に低いレベルの法定刑を規定しています(著作権法第136条第1項、第2項第3の3号)。ところが、不正競争防止法においては、技術的保護措置無力化行為に関する刑事罰則に関し、このような特別な考慮なく、一般の不正競争行為と同様に扱っており、非常に過度な制裁ではないかという指摘が出る余地もあります。その反面、不正競争防止法では、著作権法とは異なり、技術的保護措置無力化手段の製造、流通等の行為のみを不正競争行為として規定しており、技術的保護措置の無力化行為そのものについては、不正競争行為として規定していないという点から、規制の空白があるという指摘が上がることもあり得ます(著作権法第104条の2第1項)。
3.『個人情報保護法』との関係の整備
不正競争防止法の改正カ目および新設されたタ目は、各々個人情報を盛り込んだビッグデータ、並びに個人情報と密接に関連する個人の識別表示としての肖像・氏名等を保護客体として設定しています。これに対し、改正不正競争防止法は、他法との関係に関する第15条第1項に『個人情報保護法』に他の規定がある場合、その法に従うものとする内容を追加することにより、規範間における衝突の可能性に備えています。よって、改正カ目の規律対象であるデータが個人情報に関するものとして、個人情報保護法の規定と相反する事項がある場合には、個人情報保護法が優先適用されるという点に留意する必要があります。
1商標法の場合、再審査請求制度がなく再審査請求期間に関する開始絵内容は反映されていません。なお、デザイン保護法と商標法特有の制度である補正却下決定不服審判の請求期間も30日から3ヶ月に延長されました。
上記の内容につき、ご質問等がございましたら、下記の連絡先までご連絡ください。より詳細な内容について対応させて頂きます。
※ 法務法人(有)世宗のニュースレターに掲載された内容および意見は、一般的な情報提供の目的で発行されたものであり、ここに記載された内容は、法務法人(有)世宗の公式的な見解や具体的な事案についての法的な意見ではないことをお知らせ致します。



