1. 概要
関税庁は、2025年4月14日から100日間、ダンピング防止関税*回避行為に対する大々的な関税調査を行うと発表しました。今回の調査は、今年7月22日まで集中的に進められ、その主な目的は、ダンピング防止関税から逃れるために商品の品目番号や規格等の虚偽申告をしたり、第三国を経由させる方法で迂回輸出入をしたりする事例を摘発することにあります。
これは、相互関税賦課等の米国行政府における強化された関税政策により、対米国輸出が困難になっている国家において、当該物品を韓国市場へと廉価輸出する過程で、ダンピング防止関税を便法的に回避する可能性が高まっているという判断に基づいた先制的措置となります。下記では、今回の一斉点検における主な内容とその示唆点について検討させて頂きます。
* 輸入品価格(ダンピング価格)が通常価格よりも低いことにより国内産業に被害が生じる場合、通常価格とダンピング価格の差額に相当する金額を基本関税に加算して賦課する関税
2. 一斉点検の主な内容
今回の一斉点検は、関税庁本庁公正貿易審査チームとソウル税関との2つの審査チーム、釜山(プサン)および仁川(インチョン)税関の各1つの審査チームで構成される「反ダンピング企画審査専担班」が主導し、4月14日から7月22日まで100日間行われます。
点検の対象となる物品は、H形鋼(ハイパービーム)、合板、ステンレス鋼平版圧延製品等のダンピング防止関税が賦課されている22品目と、暫定ダンピング防止関税が賦課されている3品目(ステンレス鋼冷間圧延製品、石油樹脂、中国産ステンレス厚板)等の合計25品目となります。
主な取締りの類型としては、①ダンピング防止関税が賦課されていない国家を経由する迂回輸出、②低いダンピング防止関税率が適用されている供給会社の名義を用いた虚偽申告、③ダンピング防止関税が賦課されていない品目番号・規格の申告、④価格約束品目に対する最低輸出価格以上への輸入価格操作等があります。
3. 企業に及ぼす影響およびその対応策
関税庁は、ダンピング防止関税賦課品目を取引する業者の輸出入の内訳、外国為替取引の内訳、税金関連履歴の資料等を分析して違法行為の可能性が高い業者の選定を行い、これにつき、関税調査を実施する計画となっています。さらに、その結果、ダンピング防止関税の賦課回避の事実が見受けられる業者に対しては、未納税額の追徴を行い、関税脱税等の違法行為は告発措置をするなど、厳重処罰していく予定です。
このように、関税庁がダンピング防止関税の回避行為に対する取締りを強化するのは、米国への輸出が制限されている国家において、韓国市場に廉価輸出を試みるケースが増えるものと予想されるためです。これにより、当該品目を輸入する業者においては、まず、当該輸入取引が上記のような取締りの類型に該当するリスクがあるのかに留意しつつ、万が一、そのようなリスクがあると判断されれば、専門家のアドバイス等を得て事前に対処しておくことが望ましいもの言えます。
また、米国行政府における強化された関税政策の影響により、他の国家においても、自国への輸入取引につき、今回韓国政府が行うものと同様の大々的な関税調査の実施可能性が存在するため、関連輸出業者としましては、輸入国家における動向をチェックしながら、当該輸出取引がダンピング防止関税の回避行為として認められる余地があるかを事前に点検しておく必要もあります。
4. 結論およびその示唆点
最近の関税庁は、米国における高率関税政策に備えるため、今回の「ダンピング防止関税脱税行為に対する一斉点検」の他にも、「原産地表示違反行為に対する一斉点検」など、多角的な措置を発表・施行しています。これは、最終的に国内産業を保護し、公正貿易秩序を確立するためのものですが、それと同時に、個別企業にとっては、強化された規制環境におけるリスク管理力が求められるものでもあります。
さらに、米国の相互関税賦課政策およびグローバル通商環境の変化は、短期的な問題を超え、中長期的な戦略の再定立が要求されるため、頻繁に輸出入取引を行っている企業においては、急変する通商秩序に対する持続的なモニタリングを行うとともに、専門家の助けを得て先制的な対応戦略づくりをしておくことが重要です。