1. はじめに

当社が、2025年8月5日付のニュースレター(『黄色い封筒法』の主な内容と企業の対応策)でご説明させて頂いたとおり、『黄色い封筒法』[改正労働組合および労働関係調整法(以下「労働組合法」といいます。)]は、(1) 労働組合法上の「使用者」の範囲を、勤労契約等を直接締結していない者まで拡大し(第2条第2号)、(2) 労働争議の対象に「勤労条件に影響を及ぼす事業上の決定、勤労者地位決定に関する主張の不一致、使用者の明らかな団体協約違反」を追加しました(第2条第5号)。 

これを受け、雇用労働部は、①労働組合法施行令の追加改正を行い、元請使用者と下請労働組合間の団体交渉の可能性を考慮し、交渉窓口の単一化および交渉単位の決定に関する内容をより具体的なものとし、②「改正労働組合法解釈指針(案)」を発表して、範囲拡大がなされた使用者性(第2条第2号)および労働争議の対象(第2条第5号)に関する解釈基準を提示しています。改正労働組合法施行令は、再立法予告を経て2026年2月24日に国務会議で審議・議決され、解釈指針についても、行政予告等を通じた現場意見の取り纏めを行った後に一部改正され、各黄色封筒法とともに2026年3月10日より施行される予定となっています。 

今回のニュースレターでは、①改正労働組合法施行令における主な内容について解説し、②改正労働組合法解釈指針(案)の主な内容と確定している解釈指針の変更内容を各々紹介させて頂きます。

 

2. 改正労働組合法施行令の内容

ア.改正内容の概要

改正条文 主な内容
第14条の3
(労働組合交渉要求事実の公告)第3項但書の新設
交渉要求事実公告の是正申請に対する労働委員会の決定期間延長が可能となる根拠の整備
  • 現行10日+10日
第14条の5
(交渉要求労働組合の確定)第5項但書新設
交渉要求労働組合確定公告の是正申請に対する労働委員会の決定期間延長が可能となる根拠の整備
  • 現行10日+10日
第14条の11
(交渉単位の決定)第3項、第4項新設
交渉単位の分離・統合決定基準の具体化
  • 第3項:一般的な交渉単位の分離・統合の基準
  • 第4項:元請・下請の関係において下請勤労者の交渉単位の分離・統合の基準

イ.交渉要求事実の公告是正申請決定期間の延長(10日+10日)‐第14条の3第3項但書の新設

改正施行令においては、施行令第14条の3第3項但書を新設し、下請労働組合が元請に交渉要求を行ったものの、元請が交渉要求の事実を公告しなかったため労働委員会に是正申請を行った場合、労働委員会が10日以内にこれについての決定を行うことが困難なときには、10日の範囲内で一回に限り、その期間を延長することができるものとしました。 この場合、労働委員会は、元請の使用者性について判断して決定を下すことになるものの、元請・下請関係においては、元請の下請労働者に対する使用者性を判断することが容易でないことを考慮し、このように決定期間を延長できるようにしたものです。

ウ.交渉要求の労働組合確定公告是正申請決定期間の延長(10日+10日)‐第14条の5第5項但書の新設

改正施行令においては、施行令第14条の5第5項但書を新設し、下請労働組合が元請の交渉要求事実公告期間中に交渉要求を行ったものの、元請が交渉要求労働組合確定公告を行わなかったため労働委員会に是正申請を行った場合、 労働委員会が10日以内にこれについての決定を行うことが困難なときには、10日の範囲内でその期間を一度延長できるものとしました。この場合も、労働委員会は、元請の使用者性について判断して決定を下すことになるものの、前項で検討したような理由から、決定期間を延長できるようにしたものです。

エ.交渉単位の分離・統合決定基準の具体化‐第14条の11第3項、第4項の新設

労働組合または使用者は、使用者が交渉要求の事実を公告する前、または交渉代表労働組合が決定された日以降、労働委員会に対して交渉単位を分離または統合する決定を申請することができます(施行令第14条の11第1項)。 

改正施行令は、第14条の11第3項および第4項を新設し、第3項では、一般的な交渉単位の分離・統合決定時に適用される事項について規定し、また、第4項では、元請・下請の関係において下請勤労者に関する交渉単位の分離・統合決定時に適用される事項を別途規定しました。   

一般的な交渉単位の分離・統合基準(第3項)は、これまで判例で認められていた基準を法制化したものであり、(i)業務の性質・内容、作業環境、責任の割合、賃金体系・構成項目・支給方法、勤務時間、休日・休暇、福利厚生、報酬・服務規定等を考慮した著しい勤労条件の差(第1号)、(ii)契約の形態・方式、職種、採用方法、定年、人事交流の有無等を考慮した雇用形態(第2号)、(iii)労働組合の加入対象および組合員の資格、労働組合に加入した勤労者の範囲、既存の団体交渉等の労使間における協議の有無およびその方式、団体交渉対象の適用範囲等を考慮した交渉慣行(第3号)、(iv)第1号から第3号に準ずる事由によって交渉単位を分離する、または分離された交渉単位を統合する必要があると認められる事項(第4号)を規定しています。 

元請・下請の関係における交渉単位の分離・統合基準(第4項)は、(i)労働組合間における利害関係の共通性または類似性、(ii)他の労働組合による利益代表の適切性、(iii)交渉単位を維持する際の労働組合間の軋轢誘発の可能性および労使関係の歪曲の可能性等を、第3項各号の一般的基準よりも優先して考慮するように定めています。


3. 確定雇用労働部解釈指針の変更内容

ア.従前の解釈指針(案)の内容の要約

雇用労働部は2025年12月26日に、法施行を約3か月後に控えている状態で「改正労働組合法解釈指針(案)」(第2条第2号および第2条第5号)を発表し、黄色い封筒法に対するある程度の解釈基準を提示していたところ、その主な内容については、次のとおりです。

項目 主な内容

第2条第2号

(労働組合法上の使用者性)に関して

(1)判断基準

解釈指針(案)は、使用者性の判断基準が法文に規定されている「勤労条件に対する実質的・具体的な支配決定」であることを明確にし、それについての核心的な判断基準として「勤労条件の支配決定に対する構造的統制」を提示する。

(2)判断時の考慮要素

A.核心要素:勤労条件に対する構造的統制

  • 契約外使用者(または便宜上の「元請」)関連勤労者(または便宜上の「下請勤労者」)の勤労時間、休憩時間、作業日程、 作業の程度、作業環境等の具体的な勤労条件の核心的部分を事実上決定するか、契約使用者(または便宜上の「下請」)が独自に決定できる裁量を本質的・持続的に制限する場合、労働条件に対する「構造的統制」が認められる可能性がある
  • 構造的統制は、元請・下請の生産ライン等が連動している場合のように、元請・下請の業務が段階的に密接に連携している、または作業工程が相互依存的な場合に生じる可能性が高い。その反面、受給人(業者)が独立した設備を備え、完成品や部品を生産して納品する通常の物量請負契約の場合、構造的統制が生じる可能性は低くなることがある
  • ただし、請負契約等があるという理由だけで、契約相手方の所属勤労者の勤労条件に対する構造的統制があると看做してはならない。一般的な請負契約関係においては、請負目的達成のために請負人が受給人(業者)に対し、一般的に契約履行の内容や手順について指示権を有する。請負人のこうした要求・協議・調整(例:納期および品質の要求、取引条件の交渉・変更、発注書およびそれに準ずるシステムに基づく作業履行の要求等)は、契約上の管理範囲内における行為として、構造的統制とは区別されなければならない

B.補完的要素:組織的な事業編入および経済的従属性

  • これまでの法院判決等において使用者性の判断時に考慮した「元請の事業への編入」および「経済的従属性」等の要素は、補完的な指標として考慮することができる
  • [元請の事業への編入]下請勤労者の労務が元請の事業体系に直接編入された場合
  • 経済的従属性]元請事業運営体系において核心的な設備を元請から提供される、または専属的/常時的な取引関係により、下請が元請に経済的に従属している場合など、勤労条件を独自に決定することが困難な構造が存在する
第2条第5号
(労働争議の対象拡大)に関して

(1)勤労条件に影響を及ぼす事業経営上の決定

  • 労働争議の対象となる事業経営上の決定は、勤労条件に対する実質的・具体的な変動をもたらすかを基準に判断すべきである。
  • 企業投資および合併、分割、譲渡、売却等の企業組織変動を目的とする事業経営上の決定そのものは、団体交渉の対象ではない
    → しかしながら、これを実現する過程において、勤労者の地位または勤労条件の実質的・具体的な変動をもたらす整理解雇、構造調整(リストラ)に伴う配置転換等は、団体交渉の対象となる。これにつき、「整理解雇は団体交渉の対象となり得ない」とする従来の雇用労働部行政解釈(協力68140‐477、1998年12月18日等)は、2026年3月10日付で変更された。
    → ただし、合併、分割、売却、譲渡等の決定に伴い雇用調整等が「客観的に予想」される場合、労働組合は、雇用保障の要求等に関する団体交渉を要求することができる

(2)勤労者の地位に関連する勤労条件の決

  • 労働争議の対象となる「勤労者地位の決定に関する主張の不一致」とは、労働関係当事者における雇用形態の変更、懲戒、昇進等に関する原則・基準・手続の設定・変更等をめぐる紛争状態をいう
  • 非正規職の正規職への転換、懲戒・昇進基準の設定および変更要求等に関する利益紛争が労働争議の対象に含まれることを明示する

(3)使用者のあきらかな団体協約の違反

  • 「明白な」団体協約の違反とは、団体協約文言の客観的意味が明確で解釈上の争いの余地がないにもかかわらず、使用者が正当な事由なく履行しなかった場合を意味する
    → 使用者が団体協約違反を自ら認めながらも履行しない、または労働委員会の労働争議調停や地方雇用労働官署の労使交渉指導過程においても、違反事実が客観的に確認される場合などをいう

イ.確定解釈指針上の変更内容の要約

2026年2月24日に確定された解釈指針において追加・変更された内容は、下記のとおりです。

項目 主な変更内容

第2条第2号
(使用者)に関して

「勤労条件に対する構造的統制」と「勤労者派遣」の相違点の追加

第2条第5号
(労働争議)に関して
労働争議の対象となる「配置転換」が日常的な配置転換ではなく構造調整による配置転換であることを明示する

ウ.労働組合法上の使用者性(第2条第2号)

(1)勤労者派遣と構造的統制との区分

確定された解釈指針は、従前の解釈指針(案)と同様に、労働組合法上の使用者性の核心的判断基準として「勤労条件の支配決定に対する構造的統制」を提示しました。  

これに加え、確定解釈指針は、「構造的統制とは、契約外使用者(元請)が関連勤労者に対する指揮・命令を行うか否かではなく、勤労条件決定に対する契約使用者(下請)の意思決定等を制限するかの否かに基づいて判断するものであり、派遣に比べて相対的に緩和された要件の下で認められ得る」との文言を追加しています。 

これは、従前の解釈指針(案)にあった「労働組合法上の使用者性と派遣法上の勤労者派遣の差」を改めて強調したものであり、個別勤労者に対する直接的・具体的な指示レベルには至らないとしても、勤労者集団の全体に適用される規則やシステムを統制する場合、労働組合法上の使用者性が認められる可能性があると看做したものです。

(2)下請勤労者の賃金引下げの防止

確定版の解釈指針は 、「指針を理由として使用者性の回避を目的とし関連勤労者の賃金待遇を従前のものよりも引き下げることは望ましくない」という内容を追加しているものの、これは元請が下請勤労者の賃金について構造的統制を行わないことを示すため、元請が支給していた請負費用のうち下請勤労者の人件費として支出される割合を意図的に低下させることを防止するためのものと思料されます。

エ.労働争議の対象拡大(第2条第5号)

 確定版の解釈指針は、配置転換に関連し、日常的に行われる配置転換ではない「構造調整(リストラ)による配置転換」等が団体交渉の対象になるという点を明確にしました。