[1] 水素法改正案の委員会議決
2022年5月9日付で産業通商資源中小ベンチャー企業委員会は、水素経済育成および水素安全管理に関する法律(以下「水素法」といいます。)の一部改正法律案(代案)を議決しました。同改正案は現在、法制司法委員会の体系・自求審査および本会議議決を控えています。
改正案は、清浄(クリーン)水素中心の水素生産・流通・活用の全てのサイクルに亘る生態系を構築することにより、大気汚染物質や温室効果ガスを排出しないようにし、炭素中立に貢献することを目標としています。
改正案の主な内容は、①清浄水素等に関する定義および清浄水素認証制度の新設(改正案第2条、第25条の2)、②一定の水素事業者における清浄水素販売義務の新設(第25条の5)、③一定の電気事業者の水素発電入札市場を通じた水素発電量の購買・供給義務の新設(第25条の6)等となります。
[2] 改正案の主な内容
条項 | 区分 | 内容 |
---|---|---|
第2条 | 清浄水素の定義 | 清浄水素認証を得た水素または水素化合物として、次のいずれかに該当すること ① 無炭素水素:温室効果ガスを排出しない水素 ② 低炭素水素:温室効果ガスを大統領令に定める基準以下で排出する水素 ③ 低炭素水素化合物:水素運送等のために生産された水素化合物で、温室効果ガスを大統領令に定める基準以下で排出する水素 |
第25条 | 水素発電用の天然ガス料金体系 | 水素発電に供給する水素生産のために使用される天然ガスに対し別途の料金体系を適用する |
第25条の2 | 清浄水素の等級別認証制 | 生産・輸入等の過程で排出される二酸化炭素量等の認証基準を満たす水素または水素化合物に対し等級別に認証する |
第25条の5 第25条の8 |
清浄水素の販売・使用の義務 | 水素燃料供給施設の運営者、水素を原料または燃料として使用し温室効果ガス排出を減らせる事業を営む者に対し、水素販売・使用量の一定割合以上を清浄水素として販売または使用するようにし、義務不履行の際には課徴金の賦課・徴収となる |
第25条の6 | 水素発電量の購買・供給の義務 | 電気事業者の中、大統領令に定める者に対して「水素発電入札市場」を通じ大統領令にて毎年定める水素発電量の購買・供給の義務を賦課する |
附則第2条 | REC未発給特例 | 法施行後、水素エネルギー・燃料電池に対し供給認証書(REC)の未発給。ただし、運営中の水素エネルギー・燃料電池、法施行前の発電事業許可を得た者の中、法施行後1年以内に、工事計画認可を得た場合には、RECを発給する(この場合、第25条の6による水素発電量として認定しない。) |
[3] 示唆点
改正案は、清浄水素の概念を導入しつつ『生産・輸入等の過程で排出される二酸化炭素量等の大統領令に定める認証基準を満たす水素または水素化合物』を清浄水素として定義しています。改正案の準備過程で、再生可能エネルギーを利用した水電解方式により生産する水素のみを清浄水素と見るべきであるという議論があったものの、改正案は、排出される二酸化炭素量を中心に一定の認証基準を満たす水素および水素化合物を清浄水素として定義しました。なお、燃料電池に用いられる天然ガスの改質水素(天然ガスを活用し触媒反応を通じて生産した水素)として、改質の過程で再生可能エネルギーが用いられたグレー水素、石油化学工程で生産される副生水素として、炭素捕執技術が用いられたブルー水素、再生可能エネルギーを通じて生産されたアンモニアを活用した水素など、多様な形態の水素のうち、どの水素を清浄水素として認めるかは、今後制定される大統領令で定めることとなるでしょう。また、排出される二酸化炭素量のみを基準とする場合、原子力エネルギーを利用して生産される「ピング水素」も清浄水素として分類される可能性が高いものと予想されるところ、このような場合、新政府の原電連携水素産業の育成政策を進める要因になるものと思われます。
次に、改正案は、水素燃料供給施設(自動車、船舶、建設機械、航空機等に設置される燃料電池に水素を供給する施設)の運営者らに対し、一定割合以上の清浄水素を販売するよう強制が可能な根拠づくりを行いましたが、これは水素の供給および消費が高いものと予想される運送等の分野において清浄水素が一定の割合以上供給されるようにすることで、清浄水素中心の水素生態系の構築を誘導しようというものと思われます。
なお、改正案は、大統領令に定める電気事業者をもって年度別に大統領令で定める水素発電量を購買または供給させ(水素発電量の購買・供給の義務化)、このため別途の水素発電入札市場を開設し、当該入札市場を通じて水素発電量を購買・供給するものとしました。同規定は、従来の水素法改正と関連して議論されていた燃料電池中心のCHPS制度を「水素発電量」の購買・供給の義務へと拡大することにより、燃料電池を含め水素エネルギーを利用した発電量をすべて購買・供給の義務対象に含めるためのものと見られます。これに関連して清浄水素のみを利用して生産される発電量についてのみ、義務購買・供給量に含めるのか、グレー水素やブルー水素を利用して生産された発電量の場合には、義務購買・供給量を算定するにあたり、どの程度の加重値を付与するのか等については、今後制定される大統領令で定められるものと予想されます。
法施行後には、新規で許可を得た水素エネルギー・燃料電池に対し、新再生可能エネルギー供給認証書(REC)が発給されないものの、水素エネルギー・燃料電池の事業者がRECの発給によって確保できていた水準の事業性を水素発電量の購買・供給の義務化制度の下でも引き続き確保できるか否かに関連し、今後、同制度がどのように運営されるのかを見守っていく必要があります。
本改正案は、国会の本会議の議決を経て大統領が公布すると、法律として確定し、現在業界で急を要する関心事となっている清浄水素の基準および「水素発電量」の購買・供給の義務制度において、清浄水素が占める割合については、大統領令に定めるものとなっているため、改正案の国会議決の過程だけでなく、議決後の大統領令制定の動向についても、注意深く見据えていく必要があるものと判断されます。
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